コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 2008年09月号日本総合研究所 シンポジウム

【新しい国のかたち-連邦型地域主権国家の創造】
中央集権国家・日本の行く末に関するシミュレーション-2025年 地方経済・財政崩壊のシナリオ

2008年08月25日 山田久河村小百合、小西功二


要約

  1. 2000年代に入り、わが国の経済成長率は回復してきたものの、長期的にみればなお低下トレンドにある。低成長からの完全脱却が果たせないなか、地域別の経済格差も拡大している。こうした成長力低下・地域格差拡大の根本的原因は、「中央集権型システム」の機能不全に求められる。

  2. 「中央集権型システム」は以下の二つのサブ・システムから成り立っていた。

    a.「集権型分散産業システム」…大都市部に本社を持つ大企業がその工場・営業所を地方に分散することで、全国各地に富を配分する仕組み。
    b.「集権型分散行財政システム」…中央政府が地方の行政事務をコントロールする一方、補助金や地方交付税等を通じて、大都市部から地方に所得移転を行う仕組み。
    しかし、1990年代入り以降、大企業の海外事業展開の本格化で、地方の工場・営業所が減少。加えて、バブル崩壊後の積極財政の結果として国家財政が先進国中最悪の状況となるなか、大都市部から地方部への所得移転の仕組みが先細り、産業・財政の両面でシステムの機能不全が起こっている。

  3. 現行の「中央集権型システム」が存置された場合、今後マクロの日本経済の成長率が低下すると同時に、成長力の地域格差が拡大することは不可避。試算によれば、2025年度までを展望したとき、上位5県の成長率は2%弱でほとんど変らないのに対し、下位3分の1の地域では0.3%ポイント低下して、平均成長率はほぼゼロとなる。下位5県に至っては、年率0.4%のマイナス成長が続くという結果が得られる。

  4. さらに、そのとき地方財政・住民生活がどうなっているかについてのシミュレーションを行った。

    極端なケースを3通り試算すると、成長率下位3分の1の地域において、a.自治体人件費の4割カット、b.公共事業費の7割削減、c.自治体病院の閉鎖や水道サービスの料金急騰につながる「繰出金」「補助費等」の大幅カット、といった形で歳入額の減少に対応せざるを得なくなる。
    そのとき、地域住民は行政サービスの大幅削減のみならず、収入伸び悩みに加え、増税、社会保険料負担増等の影響も受けている。これら諸々の影響を勘案すれば、今から20年後には日本の3分の1の地域において、住民の実質生活水準が平均約1割切り下がることになる。さらに、下位5県に至っては、実質生活水準の切り下げが平均2割に及ぶ可能性が示唆される。

  5. 実質生活水準の低下リスクは、大都市部住民にとっても他人事ではない。現状でもすでに政令市・
    地方中核市のなかには財政状況が厳しいケースが多く存在する。今後を展望しても、経済成長率の低下に加え、急速な高齢化に伴って、厳しい状況にある都市が一段と厳しい状況に置かれることが予想されるほか、それ以外にも財政的に行き詰まる都市が増えていく公算が大きい。

  6. こうして、3分の1の都道府県で1割の実質生活水準の切り下げを余儀なくされ、政令市や中核市でも財政的に行き詰まるケースが急増することになると、生活水準の下がった地域・都市から生活水準の高い地域や自治体財政が健全な都市へと、人が移動することは不可避。その結果、産業基盤の弱い都道府県・地方中核都市では人口流出でコミュニティーが崩壊。一方、大都市部では、流れ込んできた「生活難民」が集まる貧困地域・スラム街が形成されることにもなりかねない。こうした最悪シナリオを避けるには、事態が深刻になる前に、地方が中央への甘えを捨て、各地域がそれぞれの独自性を磨く形で各々が自立していく以外に途はない。「中央集権型システム」から
    「自立した地域(地方政府)の連合体」への転換は待ったなしの状況にある。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ