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Business & Economic Review 2008年06月号

【STUDIES】
堅調を維持する中国経済

2008年05月25日 調査部 環太平洋戦略研究センター 主任研究員 三浦有史


要約

  1. 中国の2001年以降の高成長は投資と輸出の伸長によってもたらされた。投資を支えているのは国内貯蓄であり、国際的な金融不安の拡大が国内の金融システムに影響を与える可能性は小さい。一方、固定資産投資を支えているのは、「自己調達」とされるインフォーマルなルートで調達された資金である。投資が成長を支えるメカニズムは頑強であるが、過剰貯蓄が投資過剰に直結しやすいというリスクがある。

  2. しかし、不動産および工業のいずれをみても投資が過剰であることを示す材料は少ない。GDPの4割を超える投資がなされているにもかかわらず、投資効率が低下しない背景には工業の高付加価値化がある。工業の高付加価値化は中国が過剰投資に陥るリスクから解放されたことを意味するものではないが、今のところ、胡錦濤-温家宝政権はマクロ経済の安定を脅かす問題に敏感に反応しており、過剰投資によって景気が腰折れする可能性は低いようにみえる。

  3. 世界経済の減速が中国の輸出停滞を招くことは間違いない。しかし、輸出を牽引する携帯電話の需要は引き続き堅調に推移することが見込まれること、また、鉄鋼は収益基盤が国内にあることから、世界経済の減速が中国の輸出、ひいては、景気に与える影響は、繊維製品や玩具が主力の輸出品であった時代ほど大きくないとみることができる。

  4. GDPに占める消費のシェア低下は著しいものの、このことは必ずしも個人消費が減退していることを意味しない。個人消費は安定的な伸びを示しているものの、消費性向の低下、つまり、所得の伸びほどには消費が伸びず、その伸び率が投資や純輸出を大きく下回るため、シェアが低下している。これは家計の将来に対する不安の高まりという制度的要因と所得格差の拡大という構造的要因によってもたらされたもので、中国経済における消費の位置付けが大きく変化する見込みはない。

  5. 当面のリスクと考えられる、a.物価の上昇が投資と消費に与える影響、b.北京五輪と上海万博後の反動、c.人件費高騰が外国直接投資に与える影響、d.人民元切り上げが輸出に与える影響、e.株価の下落が個人消費や投資に与える影響は、いずれも投資が牽引する現在の成長メカニズムを揺さぶるものとはいえない。

  6. ただし、こうした短期的にみた成長の底堅さは長期的にみた成長の持続性を犠牲にすることで成立している側面もあり、成長の牽引役をどのようにして投資から消費に移していくか、二期目を迎える胡錦濤-温家宝政権の手腕が問われる。
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