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Business & Economic Review 2008年04月号

【REPORT】
自治体内分権の可能性-イギリスの事例を参考に

2008年03月25日 ビジネス戦略研究センター 制度・政策調査グループ 高坂晶子


要約

  1. 近年、地方分権が世界的趨勢となるなか、わが国も1990年代半ば以降改革に取り組んでいる。しかし、中央省庁による自治体統制は依然厳しいうえ、権限拡大に耐えうる財政・人口規模の確保を目指して進められた市町村合併の結果、意思決定の場が住民から遠ざかる逆効果も生じている。

  2. わが国同様、90年代後半から分権改革に取り組んできたイギリスでは、中央集権化と市町村合併を進めてきた従来路線から脱却しつつある。国から自治体への分権に加え、自治体から域内組織への「自治体内分権」が行われ、近隣地区(neighborhood)単位の地域経営が実現した。この結果、地元ニーズに即した施策、および住民との役割分担により自治体のスリム化が図られ、住民満足度向上と行政コスト抑制の両立が可能となった。

  3. イギリスの自治体内分権は、近隣地区(neighborhood)すなわち市町村内の一定地域を基盤に、住民が自発的に参加・運営する「地域自治組織」が担っている。活動目的や対象地域の広さに応じて、以下のような複数のスキームが整備されている。

    a.学校理事会―数百~千人規模の学区ごとに設置され、地元ニーズを踏まえた教育の実現と住民の日常的モニタリングによる学校運営改善を目指す。

    b.パリッシュ―数千~数万人規模の合併前市町村等を基盤に、地域密着の公共サービスを提供する。公選議会を持ち、活動分野を自己決定のうえ市町村と交渉して権限を獲得し、経費も自己負担する。

    c.グラウンドワークトラスト(GWT)―複数の市町村を担当エリアとし、環境汚染や過疎等に悩む市町村内部の問題地区において、住民、企業、自治体の連携実現のため意見調整や活動環境の整備等に当たる。

  4. イギリスの「自治体内分権」の主な特色としては、以下の3点を指摘できる。

    a.住民の自己決定、自己責任、自己負担に基づく地域主導の活動である。

    b.一部自治体における成功事例が全国に普及、改善される仕組みがあり、全国一律に施策を行う中央集権体制に比べ、各地の創意工夫を容認する分権社会の強みが表れている。

    c.地域自治組織へのバックアップ体制が整備されている。背景には同組織を育成・強化のうえ自治体との役割分担を一層推進し、効率的でスリムな地方行政を目指す国のスタンスがある。

  5. 翻ってわが国をみると、部分的には「自治体内分権」の仕組みが導入されているものの、制度設計や運営の主導権は国が握っているのが実情である。加えて、わが国地方財政は危機的状況にあることを踏まえれば、一層の市町村合併や道州制等の広域自治体化を進めてスケールメリットを追求する一方、自治体内分権を進めて住民満足度向上と行政コスト抑制を両立させることが急務である。そのためには、国が主導して自治体内分権を進める現行体制を見直し、ローカル・ルールの設定や活動分野の自己決定など自治体の主体性、独創性を喚起する取り組みが求められよう。
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