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Business & Economic Review 2008年03月号

【STUDIES】
韓国の電子売掛債権・電子手形の動向

2008年02月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 野村敦子


要約

  1. 韓国では、わが国に先行する形で電子売掛債権制度ならびに電子手形制度が導入されている。わが国の場合には、中小企業の円滑な資金調達を主要な目的として電子記録債権制度が導入されたのに対し、韓国の場合には、手形濫発による連鎖倒産や偽造・変造などの弊害を除去することを目的として、手形利用の縮小方針が示され、手形代替制度が導入された経緯にある。そして、1999~2001年にかけて韓国銀行等の主導により、企業購買専用カード、企業購買資金貸出、電子方式売掛債権担保貸出などの制度が導入された。

  2. しかしながら、これらの方式は、a.商取引から決済までのプロセスが完全に電子化されていない、b.電子方式売掛債権担保貸出は取引銀行が異なる場合には利用できない、などの問題があった。そこで、銀行間共通システムとして2002年3月に電子売掛債権制度が導入された。また、2007年1月に施行された電子金融取引法で、電子売掛債権や電子債権管理機関の定義、電子的な方法による対抗要件の具備などの規定が定められた。

  3. 手形代替制度が導入されたものの、依然として手形は中小企業における決済手段として主流を占めている。そこで、手形そのものを電子化することにより、手形制度の弊害を除去することを目的として、2004年3月に議員立法により電子手形法が成立し、2005年9月に電子手形システムが稼動した。電子手形管理機関として、電子売掛債権と同じく金融決済院が指定されている。2007年に入り、電子手形の利用は前年比1.6倍(発行件数・金額)の伸びを示しているものの、紙ベースの手形利用の1%にも満たず、普及しているとは言い難い状況にある。

  4. 韓国の制度をわが国の電子記録債権制度と比較すると、共通点としては、a.指名債権や手形債権について電子的な取扱を可能とすることでそれぞれの有する課題を解決しようとしている点、b.システムの中核に管理機関(日本は記録機関)が設置され、インターネット等を通じて債権の内容等をデータベースに登録(記録)する仕組み、が挙げられる。また、相違点としては、韓国はa.電子手形と電子売掛債権の2本立てとされていること、b.電子売掛債権は流動化(転々流通)が前提とされていないこと、c.電子手形は分割譲渡ができないこと、d.管理機関が金融決済院に一元化されていること、が挙げられる。

  5. 韓国の動向から得られるわが国へのインプリケーションとして、以下のような点を指摘できる。一つには、手形のように長年にわたり定着している決済慣行を変えるためには利用促進のための環境整備が重要であり、韓国の事例に倣い、わが国でも利用促進のためのインセンティブ策を講じる必要がある。2点めとして、韓国では利害関係もありシステムに参加する諸機関が必ずしも協力的ではないことが普及の障害となっている。わが国ではこれを反面教師として、官民の協力体制を構築していく必要がある。3点めとして、管理機関の在り方である。わが国は韓国と異なり、複数の管理機関の並存体制とされていることから、システムを稼動させるに当たっては標準化や共通化の推進、管理機関間の調整等の担い手について検討する必要がある。
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