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Business & Economic Review 2006年09月号

【PERSPECTIVES】
最近の物価決定メカニズムとその政策的含意-CPI安定化とそこに潜む新たなリスク

2006年08月25日 調査部 マクロ経済研究センター 所長 山田久


要約

  1. デフレからの脱却がほぼ達成され、今後の金融政策運営の焦点の一つは物価上昇テンポに。本稿は、近年における物価決定メカニズムの特徴について整理したうえで、先行きの物価動向と望ましい金融政策運営の在り方について考える。

  2. 物価決定要因の代表的なものとしては、a.マネーサプライ、b.需給ギャップ、c.為替相場、d.輸入浸透度、e.労働コスト―が指摘可能。近年では、需給ギャップが無視できない影響を及ぼしているが、労働コストが最も重要な要素となっている。マネーサプライについては、むしろ「物価→マネーサプライ」という“逆”の関係が観測される。

  3. 需給ギャップの物価に対する影響力はあるとはいえ、その度合いが相対的に低下してきた背景には、経済のグローバル化。すなわち、企業活動のグローバル化に伴って輸入量のスムーズな調整を通じて国内供給力のボトルネックが緩和される傾向が強まっているため。
    このことは、輸入品と国産商品の競合激化を通じて、海外の労働コストが国内の労働コストに影響を与えるようになっており、賃金体系・物価体系ともにグローバル水準に収斂する圧力がかかるようになってきたことを意味。結果として、労働コストの物価への影響度が高まることに。

  4. 今後の物価上昇テンポを占うために、単位労働コスト(名目賃金/労働生産性)の構成要素であるa.名目賃金、および、b.労働生産性、に分けて今後の動向を展望。結論としては、賃金の上昇テンポが緩やかにとどまる一方、労働生産性の向上スピードは維持できると考えられることから、労働コストの上昇テンポは引き続きマイルドに。この結果、CPIベースの物価上昇のスピードも総じて緩やかにとどまると予想される。

  5. 以上のように、構造的なCPI安定化が予想される状況にあるが、ここに来て注目されるのは原油・資源価格の高騰が続くなか、原材料コスト高がCPI上昇へと波及していく可能性。もっとも、これまでのところ素原材料価格上昇の消費財価格への累積転嫁率は低下傾向にあり、総じてみれば消費財価格は安定。これは、a.企業が原油・資源価格高による交易条件悪化を、価格転嫁よりも人件費の削減・抑制で吸収する一方、b.原油・資源価格高の背景にある世界経済の拡大が企業売上高の増加に作用することで、賃金抑制・景気循環的な生産性向上→単位労働コストの抑制を通じ、CPI安定化に寄与しているという構図。

  6. このように今後ともCPIの安定化が予想されるものの、金利水準の適正化が大幅に遅れた場合、a.資産バブルやb.設備効率低下など、様々な形で資源配分の歪みが生じ、結果として経済変動を大きくするリスク。端的には、CPIの金融政策の判断指標としての有効性が低下している可能性が指摘でき、その意味で、CPIの安定如何にかかわらず、金利水準の適正化を着実に進めていくことが肝要。

  7. 財政健全化との関わりを考慮しながら政策金利正常化を具体的にどういったテンポで行うかについては、以下の2段階に分けて考えることが適当。

    【第1段階(2006~2007年度が目処)】
    現状、資産価格の高騰が限定的であり、設備効率も維持されている状況下では、政策金利の引き上げを急ぐ必要はない。当面は歳出削減スタンスを加速させるべきであり、財政健全化を配慮したテイラー・ルールの理論値に沿った緩やかなテンポ(2007年度末1%が目処)が目安に。

    【第2段階(2008年度中が目処)】
    財政削減の強化により、プライマリー・バランス均衡化の目処が立てば、景気が回復基調にある限りは、CPIの動向如何にかかわらず「適正化水準(中立水準)」(=潜在成長率+望ましいインフレ率=2%半ば)までの引き上げを速やかに実施。

  8. 金融政策のみでは限界があることを認識することも肝要。ポイントは資源配分の効率化を促す環境整備にあり、資産価格の適正設定を促す株式・不動産市場のインフラ整備や経営資源が成長分野にシフトしていくような規制改革・知的資産投資促進策があわせて必要に。
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