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Business & Economic Review 2008年01月号

【STUDIES】
韓国の個人向け電子金融サービスの動向

2007年12月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 野村敦子


要約

  1. 韓国は、国を挙げて情報通信分野を核とした新産業の育成に力を入れている。政府はIT政策を策定して、先端ITの産業や社会への活用を積極的に進めており、電子金融サービスもその一つとして位置付けられている。韓国の情報通信基盤の普及状況をみると、ブロードバンドの加入数は1,444万件で世帯普及率は78.8%、携帯電話の加入数は4,232万件で人口普及率は87.5%に達しており、電子金融サービス普及のための基盤が整えられている。

    一方、金融業界の最近の動向をみると、1990年代後半の金融危機を受け、公的資金の大量投入、金融機関の大幅なリストラ、不良債権の集中処理、外資導入、コーポレートガバナンスの強化等の構造改革が進められている。政府の管理下で体質改善などが断行された結果、金融業界の健全化が図られることとなった。金融構造改革が一段落した後、金融業界は電子金融への取り組みを本格化させている。

  2. 電子金融取引については、99年にインターネットバンキング、2003年にICチップベースのモバイルバンキングが導入されたが、どちらも急速に普及が拡大している。2007年3月末時点のインターネットバンキングの登録顧客数(個人)が3,623万人、モバイルバンキングの登録顧客数は340.6万人である。
    オンライントレーディングは97年に開始されたが、現在では証券取引金額全体の半分以上を占めるに至っている。ただし、オンライン保険取引に関しては、保険商品の内容や料金体系の複雑さなどがあり、銀行取引や証券取引ほどには普及していない。

    電子決済に関しては、クレジットカードの利用率が高いことが注目される。政府の利用促進策の結果、クレジットカードは日常生活でも利用されるようになっており、年間利用金額は民間消費支出の半分程度を占めるに至っている。反面、クレジットカード・バブルの崩壊による信用不良者の増大など、弊害も生じている。そのほか、電子マネー、モバイルペイメント、交通カードなどの電子決済サービスが実用化されているが、クレジットカードの普及が先行した影響を受け、交通カード以外の普
    及は伸び悩んでいる。

  3. 韓国では、電子金融サービスの急速な普及に対応するために、法制度の整備もあわせて進められている。2006年4月には電子金融取引法が成立した。電子金融取引法は電子金融に関連する市場と事業者の健全な発展、ならびに消費者の保護を図ることを目的としている。とりわけ、非金融機関が電子金融業務を行うにあたっての様々な要件を定めている点が特徴である。

    加えて、公認認証制度も電子金融サービスの安全性を確保するための手段として、重要な役割を果たしている。電子政府や電子金融取引、オンラインショッピングで一定金額以上の電子決済等を利用する際には、公認認証書の利用が必須となっている。

  4. このように、韓国では官民を挙げて電子金融サービスの実用化と環境整備が進められているが、課題もある。一つには、サービスの種類によって普及の度合いに著しい差が生じており、とくに電子マネーなどの後発サービスが苦戦していることが挙げられる。また、次世代のモバイル金融サービスをめぐり、銀行と携帯電話事業者の間で主導権争いが生じているなど、事業者間の連携が円滑でないことも普及の足枷となっている。規制の在り方に関しても、政府によるコントロールが強くなりすぎると、新しいサービスの実用化や普及の阻害要因となることが懸念される。

    韓国の取り組みでわが国が参考とすべき点としては、いち早く電子金融にかかる法制度の整備を行ったことや公認認証の電子金融への活用が挙げられる。また、韓国が抱える課題として指摘した事項はわが国でも同様に存在する問題であり、他山の石とする必要があろう。
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