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Business & Economic Review 2006年09月号

【STUDIES】
電子金融取引の動向と金融ビジネスに与える影響

2006年08月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 野村敦子


要約

  1. 情報技術(IT)分野における技術革新は、経済・社会の様々な局面において情報化・電子化の進展を促しており、金融ビジネスも例外ではない。わが国における金融分野へのITの導入の歴史は古く、1960~70年代にかけての金融機関内部における本支店間のネットワーク化を中心としたシステム化から始まり、金融機関間における取引の電子化、消費者向けの金融サービスへのITの導入と段階的に発展している。金融取引を電子化するメリットとしては、店舗の所在や営業時間などの時間的・距離的な制約から解放され、事業者にとってはペーパーレス・非対面でのサービス提供が可能となり、人員や店舗、紙等にかかるコストや時間の節約が可能であること、一度に多くの顧客に対し情報やサービスを提供できること、潜在的な顧客の開拓に繋がることなどをあげることができる。インターネットを利用した金融サービスには、インターネットバンキング、モバイルバンキング、オンライントレーディング、インターネット保険取引などがある。インターネットを介した金融サービスの提供が本格化するなか、リアルの店舗を持たずに、インターネットを通じてのサービス提供に専従するインターネット専業の金融業者も登場している。

  2. インターネットの普及につれて、わが国ばかりでなく、海外においても、インターネットを金融取引に活用する動きが進展している。
    まず、インターネットバンキングについてみてみると、アメリカでは90年代半ばに大手銀行によりインターネットバンキングが提供され、インターネット専業銀行も複数登場した。2000年代に入って、インターネット専業銀行の多くは、競争激化のために淘汰されたものの、インターネットバンキングの利用は着実に広がっている。FRS(連邦準備制度)の消費者金融調査によれば、銀行取引の方法として、コンピュータと答えた者の割合は95年に3.7%であったのが、2004年には33.6%にまで増えている。ヨーロッパやアジアにおいても、アメリカでの普及を受け、90年代後半からインターネットバンキングへの取り組みが本格化している。ただし、ヨーロッパではインターネット専業銀行はイギリスを除いてそれほど多くなく、アジアについても既存銀行がインターネットバンキングに取り組むケースがほとんどである。

  3. 次に、オンライントレーディングは、アメリカで94年頃から始まり、90年代後半以降インターネット専業の証券会社(オンライン証券会社)が割安な手数料を武器に急速な成長を遂げた。しかし、最近では伝統的証券会社の有する投資アドバイスやコンサルティング機能が再び見直されるようになっており、オンライン証券会社においても、リアルの店舗を開設することでインターネット以外の顧客との接点を確保する動きがみられる。ヨーロッパ(イギリスを除く)の場合は、銀行が証券業務や保険業務も取り扱うユニバーサルバンク制度が一般的であり、オンライン証券についても、こうしたユニバーサルバンクが子会社を通じて取り組むケースが多い。最近では、オンライン証券会社の統合・再編が進んでいる。アジアではとくに韓国において、オンライントレーディングが発展している。個人の証券取引のうち、インターネットを通じた取引が8割以上となっている。
    そのほか注目される電子金融サービスとしては、イギリスのダイレクト・インシュアラーによるインターネット保険取引、インターネット上で個人間の金銭の貸し借りを仲介するオンラインレンディング、「Personal Financial Management(PFM)」と呼ばれる財務ソフトを使った資産運用管理とそれに付随する資金取引などがあげられる。

  4. 現在普及している電子金融取引の多くは、主にインターネットを情報提供や商品販売の窓口として活用するビジネスモデルがほとんどであるが、今後、Web2.0などの先端技術の応用により、従来にはない新しいタイプの金融サービスの登場が期待される。例えば、アカウント・アグリゲーションや金融ポータルサイトは従来からあるサービスであるが、Web2.0等の技術を使うことにより、より利用者のニーズに合致し、技術的にも洗練されたサービスを提供することが可能になろう。すなわち、金融と物販・日常生活関連のWebサイト同士をシームレスに連携させたり、RSS(Rich Site Summary)と呼ばれる技術を使って利用者のニーズに応じた更新情報を自動的に配信したり、SNS(Social Network Site)を使って利用者とのコミュニケーションやマーケティングの実施、口コミ情報の発信などが可能になると考えられる。

  5. 金融とITの融合により、新しいサービスの提供が可能となるなか、金融ビジネスのプレイヤーの顔ぶれやビジネスモデルにおいても変化が生じている。電子金融取引の進展に伴い、金融ビジネスに起きている最近の動きは以下の通りである。1点めとして、金融機関と異業種事業者の連携の活発化、とりわけIT企業との連携の動きが相次いでいる。2点めとして、金融サービスにITが導入され、機能の高度化や多様化、複雑化が進むにつれ、金融ビジネスの構成要素のアンバンドリング化(分化)、ならびに分化された機能を再構成(リバンドリング)し、新しいビジネスモデルを構築しようとする動きである。3点めとして、インターネットが顧客との接点になる一方で、リアルの店舗における相談機能の重要性が再認識されており、リアルとバーチャルの融合を模索する動きも出てきている。そうしたなかで、金融機関に問われるのは、金融取引の電子化を通じてどのような付加価値を提供できるかという差別化戦略である。インターネットやITを導入するだけでは、他の金融機関との横並び状態は解消されることはなく、国内外でインターネット専業金融業者の淘汰が起こったのも、戦略性の欠如によるところが大きいと考えられる。

  6. 今後、電子金融取引の普及を一段と促進し、金融機関と利用者の双方がその利便性等のメリットを享受するためには、利用者保護制度の整備が重要である。わが国において、電子商取引全体にかかる法体系は整備されてきたものの、電子金融取引に焦点を当てた法体系の整備までには至っていないのが現状である。一方、海外に目を転じてみると、韓国で2006年4月に「電子金融取引法」が成立している。既存の電子商取引関連法では、電子金融取引におけるシステムの安全性の確保や利用者保護に関する規定が不十分であることから、同法が制定されたものである。わが国においても、電子金融サービスの発展に伴い、電子金融取引における利用者保護への対応や事業者の責任分担・法的関係の明確化などが必要になると考えられ、法制度の整備は今後の検討課題として指摘される。
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