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RIM 環太平洋ビジネス情報 2005年10月号Vol.5 No.19

中国の所得格差-所得階層の固定化がもたらす社会不安の高まり

2005年10月01日 調査部 環太平洋戦略研究センター 三浦有史


要約

  1. 中国は貧困人口の大幅な削減に成功した。しかし、その一方で、地域間格差は1980年代後半から、内陸部の農村を底辺として都市・農村間および沿海・内陸間で一貫して拡大を続けている。所得階層間の格差も90年代を通じて拡大しており、貯蓄格差という新たな問題を生み出している。貯蓄格差は所得階層の固定化を促す可能性がある。

  2. 所得分配の不平等度を表すジニ係数の国際比較からは、中国は短期間で同係数が急速に上昇し、今や世界で最も不平等度の高い国のひとつとなっていることがわかる。地域格差是正のために進められている「西部大開発」の効果は限定的である。投入量に依存した従来の「粗放型」成長路線を見直し、分配面からのアプローチを強化しなければ、所得格差の拡大という問題に立ち向かうことは難しい。

  3. 財政は所得再分配機能を果たしてこなかった。間接税の比率が高いことと中央政府からの所得移転が省の歳入規模に応じて行われたことによって、所得階層間および地域間格差は拡大した。個人所得税は必ずしも高所得者層に重い税負担を強いているわけではなく、農業税に至っては低所得者層ほど負担が重いという逆進性を有している。今後本格化が見込まれる付加価値税改革は地域間格差を増幅する可能性さえある。

  4. 改革・開放政策が地域間格差の拡大を招き、これが都市農村および所得階層間格差に波及したとみることが出来る。しかし、近年の都市農村間および都市内部における格差の拡大は、中国特有の制度や政策によってもたらされたものであるといえる。WTO加盟に伴う農業における競争の激化など格差拡大を促す要因は多い。格差是正に積極的に取り組まなければ、市場の規模と成長性の維持、あるいは、人的資本の形成という持続的な経済発展に向けた基盤を失う危険性がある。

  5. 所得格差が政治的・社会的安定に及ぼす影響を考察するに当たっては、所得階層の固定化および自らを貧しいと考える主観的な貧困ラインの動きを理解することが重要である。近年、農村問題が政策課題としての重みを増している背景には、農村が貧しいからではなく、所得階層の固定化が始まったことによって、自らを貧しいと考える主観的な貧困ラインが上昇したことがある。これこそが中国における格差問題の核心であり、政治的・社会的安定を脅かす真の原因である。
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