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RIM 環太平洋ビジネス情報 2005年04月号Vol.5 No.17

東アジア市場統合とわが国の役割-ASEAN後発国の発展を促す

2005年04月01日 調査部 環太平洋戦略研究センター 三浦有史


要約

  1. 東アジアにおける市場統合は、域内の経済格差や貧困への対応といった南北問題が絡む先例のない実験である。発展段階が異なる国による市場統合では、企業の円滑な活動を支援する通商政策だけでなく、経済協力政策が重要となるが、両者は相容れない要素を含むため、そのバランスをどのようにとるかがポイントとなる。

  2. ASEANは、1990年代半ば以降、ASEAN10へと拡大した。国際社会への復帰に伴い、「アジアに残された最後の市場」と評された後発国(95年以降にASEANに加盟した国々)には大量の援助と外国直接投資が流入した。「世界の成長センター」とされた先発国と後発国によるASEAN10は域内外から十分な資金を調達することが可能となり、後発国の経済成長は半ば約束されたもののようにみえた。しかし、アジア通貨危機とその後の中国の台頭によってASEAN10を支えていた前提が根底から崩れ、後発国は市場統合を妨げる重荷になりつつある。ASEANは市場統合を急ぐほど、域内の亀裂が増すというジレンマに陥り、後発国が抱える問題に対応する新たな支援の枠組みが必要とされている。

  3. 東アジアの持続的な経済発展が必ずしも後発国に及ぶとは限らない。AFTAが後発国の域内貿易を促したわけではなく、後発国はむしろ援助依存度を高めるとともに、外的環境の変化によって貧困と不平等の問題が増幅されやすい経済構造に陥った。これらの問題は援助をつぎ込めば解決する問題ではなく、市場統合に対応した援助政策の転換-a.自助努力の発揚、b.ASEANの結束の強化、c.貧困や不平等の抑制-が求められることを意味する。

  4. 世界銀行などの国際金融機関は後発国の開発計画に大きな影響を及ぼしている。しかし、ガバナンスの改善に寄与するとされる制度の有効性や外生的ショックに対応する政策のあり方など、その処方箋は必ずしも後発国のニーズに合致しておらず、わが国が後発国の実情に基づいて支援を展開する余地は大きい。

  5. わが国が市場統合のリーダーを自認するのであれば、援助政策は後発国の市場統合への積極的な関与と改革に向けた自助努力を引き出すという新しい課題に対応するものでなければならない。後発国の自助努力を促すには、制度や政策に対する支援を東アジアが一体となって取り組む連携型援助の枠組みを構築する必要がある。

  6. わが国は、格差拡大の危機感を煽ることで援助を獲得しようとする後発国には自助努力なしに市場統合のメリットは享受できないことを、そして、わが国の援助に依存する先発国には応分の負担が必要であることを「率直」に伝えなければならない。わが国においても技術協力のアンタイド化やプログラム援助の導入を通じて、後発国の不安に応え、先発国の協調を活かす知的基盤の強化を図る必要がある。
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