コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

RIM 環太平洋ビジネス情報 2005年04月号Vol.5 No.17

東アジアの為替政策協調

2005年04月01日 調査部 環太平洋戦略研究センター 清水聡


要約

  1. 多くのアジア諸国の為替制度は公式には自由変動相場制あるいは管理変動相場制であるが、為替レートの変動幅は主要先進国と比較すると小さく、a.対ドルレートの安定、b.外貨準備の蓄積、c.為替レート上昇の抑制などを目的とした政策運営が行われている。

  2. 対ドルレートの安定が重視される背景には、ドルが基軸通貨であるために貿易取引や対外資金調達において多く利用されていること、アジア地域の貿易構造の中でアメリカが大きな役割を果たしていること、中国がドル・ペッグ制を維持していることなどがある。

  3. アジア諸国の為替政策の変化を促す背景として、第1に、域内の実体経済の統合が進展していることがあげられる。これにより域内レートの安定のメリットが増加するとともにドル重視政策の合理性が低下する可能性がある。第2に、アメリカの経常赤字拡大の影響があげられる。赤字の縮小は当面期待しにくく、ドルの不安定が続くとみられる。これに伴い、中国をはじめとするアジア諸国の為替政策に対する欧米諸国からの批判が強まっている。これらの要因から対ドルレートの安定を図る意義が薄れるとともに、域内レートの安定を確保することも難しくなりつつある。

  4. アジア諸国は、対外取引の多くをドルに依存する状況からの脱却を図るとともに、為替政策の協調の可能性について検討することが必要である。「ドル離れ」を進める方策としては、①中国の為替制度の変更を支援すること、②各国で金融・資本市場の整備を図ることなどが重要である。特に、国内債券市場や為替市場の整備が求められる。

  5. 為替政策の協調を実現するための課題は、第1に政治的な合意の形成である。そのためには、「どのような協調が可能か」を検討する前提として「なぜ協調が必要なのか」についての研究を深める必要がある。第2に、各国の経済発展度の違いを克服することである。発展度が比較的類似した国の間で先行して協調を実施し、段階的に拡大することが現実的であろう。第3に、協調に伴う通貨危機の発生を回避することである。サーベイランスや介入資金の供給などの制度整備に加えて、政策協調のスケジュールを明確にし、市場の信認を確立することが不可欠である。

  6. 政策協調の方法としてはドル・円・ユーロの主要3通貨による通貨バスケット制が提案されることが多いが、日本の参加が難しいなどの問題点がある。十分な準備をしたうえで域内通貨のみによる協調を実施することも選択肢として考えられる。いずれにせよ、協調のスケジュールの全体像を描いておくことが不可欠であり、その検討にあたって日本はアジアのためにリーダーシップを発揮しなければならない。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ