Business & Economic Review 2006年07月号
【STUDIES】
所得格差の最近の状況-格差の拡大は止まったのか
2006年06月25日 調査部 主席研究員 太田清、調査部 主任研究員 小方尚子
要約
- この分析の特徴は以下の通り。(イ)世帯統計だけでなく労働統計の情報をも利用していること、 そのことにより、数多くのデータで、とくに最新までのデータでみていること、(ロ)調査対象数の 多い統計もみていること、(ハ)人口の年齢構成変化の影響を考慮し、年齢別にみていること。
- 労働所得の格差は、1990年代後半以降拡大している。年齢別にみると、とくに若年層で拡大してい る。非正規雇用の増加がその最大の原因であり、そのため低所得の方で格差が拡大している。ただし、 最近は景気の回復・拡大で、非正規化とそれに伴う労働所得格差の拡大にも歯止めがかかっている。 一方、正社員同士の間で格差が拡大する様子も窺われる。また、企業規模間の労働所得格差の拡大に ついては、明確に歯止めがかかったようにはみえない。
- 世帯所得統計でみても、労働世代、とくに若い世代で90年代後半から格差が拡大した。しかし、最 近では横ばいとなっている。一方、低所得者の割合を示す相対的貧困率はとくに30歳未満の層で上昇 している。
- 生活保護の被保護者世帯の割合は、高齢者と高齢者以外ともに上昇してきた。足元でも依然として 増加し続けているものの、増加ペースは鈍化してきており、高齢化以外の増加圧力に歯止めがかかっ てきた可能性がある。
- 上記のような格差の状況を踏まえると、低所得者の増加による格差の拡大を招かないように、マク ロ経済の持続的拡大が重要であるといえる。また、経済が拡大しても、すでにフリーターとなってい る人がフリーターから抜け出しにくい様子もみられるため、ミクロ面でのきめ細かい対策にも力を入 れる必要がある。