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Business & Economic Review 2005年10月号

【STUDIES】
中小企業金融の電子化と電子債権市場

2005年09月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 野村敦子


要約
  1. 中小企業は、わが国の企業数全体の99%、従業員数で70%を占めており、わが国の経済・産業を支える基盤としても、地域経済の担い手としても、重要な役割を果たしている。このように大きな役割を果たしている中小企業の成長を促すことが、わが国の経済の活性化に繋がると考えられることから、中小企業の資金調達手法を拡充し、経営の安定化と活力・機動力の増進を図る必要があるが、実際の中小企業の資金調達環境は厳しい状況にある。さらに、不動産担保や手形の割引に依存する従来の資金調達手法は、不動産価格の下落や手形取扱高の減少によって限界が生じている。そこで、中小企業の保有する売掛債権を活用した新しい金融手法の開発が進められている。

  2. 売掛債権を活用した資金調達手法のなかでも、a.従来の手形振出・割引に代わる「一括決済方式」や、b.売掛債権を電子的な手形に擬して取り扱う「電子手形サービス」などが、電子債権の嚆矢的な取り組みとして注目されている。しかし、これらはいずれも売掛債権(指名債権)であるために、a.二重に譲渡されるリスクがある、b.債権譲渡禁止特約の不存在を確認する必要がある、c.第三者対抗要件を具備するために手間とコストがかかる、といった問題がある。また、電子手形には手形法が適用されないため、手形のメリットを享受できない。こうした指名債権の煩雑さの回避と手形債権のメリットの享受という両方の課題を克服する、新しい類型の債権としての電子債権制度が検討されている。
    電子債権とは、権利の発生から移転、資金化、消滅にいたるまでのプロセスが電子化された債権をいう。債務者および債権者が、インターネットを通じて電子債権管理機関の電子債権原簿に債権に関するデータを登録することで権利が発生する仕組みとなっている。また、電子債権原簿への記載・書換えにより対抗要件を具備することになり、従来の確定日付取得や債権譲渡特例法上の手続きの煩雑さが解消され、コスト負担も低減するなど、債権流動化の促進に寄与することが期待されている。

  3. 海外に目を転じてみると、韓国においても類似の制度が検討されている。ただし、韓国はわが国とその導入に至る背景が異なっており、a.手形の濫発や裏書譲渡による連鎖不渡りなど手形の弊害を防止すること、b.商取引から決済に至るまで一連の取引を電子化すること、を主眼に電子売掛債権制度と電子手形の実用化が進められている。韓国では、紙ベースの手形から新たな決済手段への移行を促進するために、低利融資や税額控除などの優遇措置が講じられているのが特徴である。
    一方、アメリカでは、わが国の電子債権制度のような中小企業金融の円滑化を目的とする取り組みはみられないものの、商取引に付随する決済業務の効率化という観点から、EBPP・EIPPと呼ばれる決済システムが普及しつつある。また、銀行が小切手をペーパーレスで取り扱うことを認めるCheck21 Actが施行されている。アメリカでは、債権の流動化が進んでいるが、その背景にはUCCファイリング制度と呼ばれる動産・債権登録制度があることに加え、債権の評価や信用情報を提供する専門的な事業者、セカンダリーマーケット(売買市場)の存在などがあり、わが国が今後電子債権の利用を進めるうえで参考となる部分がある。

  4. 電子債権制度の創設に向けて検討すべき項目は多岐にわたり、法案の骨子を固めるまでには相当の時間を要するものと思われるが、重要なことは、電子債権市場への参加者にとって使い勝手がよい仕組みとすることである。諸外国の取り組みを参考に、電子債権市場に求められる機能を利用者の視点から考察すると、a.手形を代替する機能の付与、b.簡易かつ信頼性の高い登録制度の整備、c.信用リスクデータベースの構築、などの必要性が指摘される。
    このような電子債権市場に求められる機能は、電子債権市場に参入する企業にとっては新たなビジネスチャンスに繋がるものと考えられる。例えば、電子債権管理機関は多様な主体の参入が想定されているが、電子債権管理・登録業務は新たなフィービジネスとなるばかりでなく、電子債権を活用した金融サービスの開発により新たな収益機会が創出されることにもなろう。また取引信用保険など、これまでわが国にはなじみが薄かった金融サービス・商品に対するニーズも高まると考えられる。
    このように電子債権制度の創設は、中小企業金融の多様化・円滑化を促すとともに、金融業界等にとっても新たなビジネスモデルを構築し、市場を開拓する好機となることが期待される。
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