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Business & Economic Review 2006年06月号

【STUDIES】
アジア債券市場育成の現状と課題

2006年05月25日 調査部 環太平洋戦略研究センター 主任研究員 清水聡


要約

  1. 通貨危機以降に本格化したアジア債券市場の育成を目指す動きは、主に危機の再発防止を念頭において進められてきた。具体的な目的としては、a.銀行と資本市場のバランスの取れた国内金融システムの形成、b.ダブル・ミスマッチの改善、c.アジア諸国の貯蓄の域内への還流、d.東アジアの域内金融統合の促進、などがあげられる。通貨危機の再発の可能性が低くなった現状を踏まえると、a.が最も重要であると考えるべきであろう。域内の金融統合の促進も重要な課題であるが、そのために債券市場が果たしている役割は今のところ小さい。


  2. 通貨危機以降、アジア諸国の債券市場は急速に拡大した。しかし、国債市場に比較して社債市場の拡大は遅れており、また市場の発展度合いは国ごとに大きく異なる。先進国と比較した場合、債券発行残高の対GDP比率は全般に低く、債券市場が拡大する余地は大きいとみられる。発行体や投資家の多様化が不十分であることや流通市場の流動性が低いことなども、問題点として指摘される。


  3. 債券市場の拡大を今後も維持するためには、発行体、投資家、市場インフラ、証券法やコーポレート・ガバナンス等の間接的なインフラなど、多様な課題に取り組んでいく必要がある。債券市場の育成を目指した域内の取り組みとして、アジアボンドファンド(ABF)やアジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)があり、どちらも多大な成果をあげている。今後、ABMIにおいては、多様な課題を包括的にカバーすることがますます重要となろう。そのためには、a.各国の政策当局との連携を従来以上に強化すること、b.債券市場の現状と政策の効果を十分にチェックすること、c.間接的なインフラの整備をより重視すること、などが求められよう。


  4. ABMIにおいては、域内のクロスボーダー債券投資の促進や地域債券市場(regional bond market)の育成を目指した取り組みが強化されている。地域債券市場を創設する最大の意義は、域内の豊富な貯蓄を活用することにより、規模の経済や発行コストの低下を実現することにあるといえよう。しかし、そのためには課題も多く、とくに、債券発行通貨の選択は難しい問題となる。基本的には、各国の国内債券市場を整備することが重要であり、地域債券市場の育成は長期的な課題としてとらえるべきであろう。


  5. 債券市場の持続的な発展のためには、市場参加者の拡大が不可欠であり、政策当局と民間経済主体の連携が重要である。市場インフラの整備において政策当局の果たす役割は大きく、これを推進することによって民間経済主体の意欲的な参加を促すことが求められている。
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