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RIM 環太平洋ビジネス情報 2006年05月号Vol.6 No.21

所得格差の問題をどうみるか
-格差の拡大と固定化を助長する政府-

2006年05月01日 調査部 環太平洋戦略研究センター 三浦有史


要約

中国では所得格差に加え貯蓄格差も加速度的に拡大している。所得分配の不平等さを表わすジニ係数の上昇は他に例をみないほど急激なもので、中国は今や不平等度が高い国の範疇に入った。しかし、所得格差の問題が社会を不安定化させる要因となるか否かを見極めるには、単に格差の大小をみたり、その原因を地理的な条件に帰せるか否かをみたりするだけでは不十分である。格差の拡大が何によってもたらされ、政府は果たして格差を助長したのか、放置したのか、抑制したのかを検証する必要がある。

財政は、歳入面では累進課税制度、歳出面では貧困層を意識した医療および教育支出あるいは社会保障制度によって、所得の再分配を行う。しかし、中国ではそうした再分配がほとんど機能しておらず、政府は格差を助長する役割を果たしてきたといえる。共産党は 「和諧社会」という新スローガンを打ち出し、所得格差の是正および教育や医療、社会保障の貧困層への拡充に乗り出した。政府の役割は「いかに市場を機能させるか」だけでなく「いかに市場経済化によって生じた歪みを是正するか」に変化しており、「和諧社会」の成否は中央政府がこの変化にどう対応するかによって大きく左右される。

所得格差が大きい社会でも、それが一時的なものである場合には、直ちに社会を不安定化させる要因にはならない。しかし、中国では所得や資産に応じて手にする「機会」に大きな格差が生じており、所得階層が固定化される傾向が強まっている。格差問題の先行きは決して楽観を許さず、それは社会が不安定化するリスクを緩和するために早急な取り組みが要求される課題であると同時に、社会の活力を維持するために長期的な視点を持って取り組むべき課題といえる。

もはや「公平」という社会的正義を追求することなしに中国の持続的な経済発展はありえない。資産格差などの「結果の不平等」に介入しなければ、「機会の均等」を維持することは難しく、累進課税の強化、資産課税制度の導入、医療や教育などの行政サービスの平準化を急がなければならない。日本企業にとって最も懸念される事態の一つは、社会に蓄積されたフラストレーションがなんらかのきっかけで反日運動と結びつき、日本企業を標的とした不買運動やストライキに発展することである。日本企業にはこうしたリスクを想定し、日頃から「企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility: CSR)」を通じて消費者、従業員、政府、地域社会との信頼関係を深める努力が必要とされる。
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