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RIM 環太平洋ビジネス情報 2006年05月号Vol.6 No.21

為替制度改革の展望

2006年05月01日 調査部 環太平洋戦略研究センター 清水聡


要約

2005年7月の切り上げ以降、人民元の対ドルレートは緩やかに上昇しているが、世界的な国際収支の不均衡に改善の兆しがみられないため、中国に柔軟な為替政策の採用を求めるアメリカからの圧力はますます強まっている。

人民元の対ドルレートの変動をより大きなものとするためには、現在の為替制度の中でも、a.±0.3%の変動許容幅を活用すること、b.人民元の上昇ペースを現在よりも上げること、などが可能である。当面、中国はこれらの対応を実施していくものと思われるが、次の段階では対ドルレートの変動幅を拡大することになろう。

ただし、変動幅を急激に拡大することは難しい。為替レートを本格的に変動させるためには、経済主体が為替リスク管理手法を身に付けることや、金融政策の信認を高めるとともに外国為替市場を整備することなどが不可欠である。これらを実現するには長い時間がかかるため、制度変更は漸進的なものとせざるを得ない。

また、当面は切り上げ期待が強いため、変動幅を拡大すれば人民元に対する上昇圧力が働くことになる。大幅な上昇を容認することに関しては、経済成長率の低下やそれに伴う雇用の悪化、あるいは農業、国有企業、銀行などの脆弱と思われる部門への影響を懸念する声が強い。この点からも、制度変更に伴う影響を確認しつつ、漸進的に政策を実施する以外に方法はないと考えられる。

現実的なシナリオとしては、変動幅を3%前後に拡大し、それを1~2年程度維持することが考えられる。そして、為替レートの緩やかな上昇を容認しつつ、次第に中央銀行の為替介入を減らす方向に持っていくことが望ましい。
対ドルレートの変動幅の拡大が容易でない以上、通貨バスケット制への移行は長期的な課題にとどまる。また、漸進的な改革を前提とすれば内外経済への影響も大きなものとはならないと考えられ、経済主体は余裕を持って対応することが可能である。

将来、東アジアが為替政策の協調を実現するためには、中国の果たすべき役割が大きい。この観点からも、人民元は十分な交換性(convertibility)を有する国際通貨となる必要があり、資本取引規制は大幅に緩和されなければならない。対ドルレートの変動幅の拡大は、これらの目的に向かう重要な一歩となる。
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