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Business & Economic Review 2005年06月号

【STUDIES】
企業とNPOの協働(パートナーシップ)の在り方

2005年05月25日 調査部 ビジネス戦略研究センター 主任研究員 高坂晶子


要約
  1. わが国のNPO法人数は2005年1月末時点で2万を超え、その活動の多様化と認知度の向上が顕著である。NPO(民間非営利)セクターの台頭と軌を一にして、企業とNPOが連携、協力を強化しようとする動きがみられる。

  2. 企業とNPOセクターの相互関係について、やや長い目でこれまでの推移を振り返ると、両者は1960年代半ば以降、連携、協力を続けており、80年代までは地元自治会等と企業の交流が中心であった。80年代後半には企業から芸術活動やスポーツ団体への後援も盛んに行われた。95年の阪神・淡路大震災を機に両者の距離は急速に縮まり、企業が個々のNPO組織に協力するケースが増えたほか、セクター全体の活動環境の向上にも尽力しつつ現在に至っている。
    これらの連携・協力の大半は、企業がNPOの活動に対して資金や人材等を提供する形で進められてきた。さらに最近では、NPOが企業に対してノウハウや専門知識等を提供するケースなど、両者がそれぞれ互いの特質を活用しあう動きが生じているうえ、次のような協働パターンが広がり始めている。a.公益事業の参入規制緩和に伴い、企業が医療や教育分野で活動実績を持つNPOと協力する。b.「企業の社会的責任(CSR)」が重視されるなか、企業はNPOと連携し、環境保全や品質管理に関する社会の声を把握して製品開発や情報開示等に活かす。c.組織の存続と自律のため収益事業に注力するNPOが増えるなか、これら事業型NPOが資金調達や運営能力に秀でた企業と共に事業を進める。今後を展望しても、こうした企業とNPOとのパートナーシップは、双方にとってメリットが大きいだけに、一段と広がっていく公算が大きい。

  3. 企業とNPOのパートナーシップが拡大した場合、それはどのような分野で行われ、成果はいかなるものかという観点から、目を海外に転じると、様々な協働形態が看取される。NPO先進国であるアメリカをみると、技術研究開発や地域開発、社会福祉、環境保護、経済活性化など多くの分野において、企業とNPOが資金や人材などのリソースを持ち寄ってプロジェクトを企画、実行し、その結果、企業は収益をあげ、NPOは事業内容を多様化したり専門性を高めるなど、双方がメリットを実現する「Win-Win関係」の協働事例が多数存在する。
    このうち、地域開発分野における協働は、以下の三つの点で、わが国にとってとくに参考となろう。a.多額の資金と多くの人材を動員し、活動内容が施設建設(ハード)と社会サービス(ソフト)の双方にわたり、市街地の整備に加えて地域活性化や住民生活の再建も実現するなど、スケールが大きい。b.企業とNPOの連携に政府も巻き込んでいる。c.わが国では地域開発、なかでも大規模公共住宅建設等のハード事業をNPOが担う可能性はゼロに等しいのに対し、アメリカのNPOは対等な立場でプロジェクトに参画している。

  4. アメリカでは、地域開発分野における協働事業の萌芽が70年代末にみられ、80年代半ば以降は、大都市を中心に、プレーヤーの増加、活動内容の多様化と高度化、事業規模の拡大が進んだ。
    地域開発分野のパートナーシップが普及したのは、「企業、NPO、政府が、各自の得意分野で活動することによってプロジェクトの成功に貢献でき、同時に自らもメリットを得るような連携メカニズム」が生成、定着してきたという事情がある。 すなわち、a.企業は経営ノウハウや事業上の知識を駆使し、テナント誘致や起業支援を行って地域経済を活性化させ、その結果生まれた事業機会を収益につなげていく、b.NPOは地域事情や生活環境に関する知識・情報を活かしてオーダーメイド型のプロジェクトを進め、住民の満足度を高めて、活動の場の拡大を果たす、c.政府は開発地域の合意形成や住民対応をNPOに任せつつ、税金拠出や制度設計の権限に基づいて資金提供や環境整備を行い、それによって参加企業を呼び込み、その資金力や経営能力等を活用して効率的に地域開発を進める、という構図である。3者の連携が事業効果を高めたことから本メカニズムに対する社会の関心が高まり、現在、多くの都市で、パートナーシップによる地域開発事業が行われている。

  5. サンフランシスコ市では、NPOと企業、政府の連携による地域開発事業が広く普及し、先進的な取り組みも多数みられる。企業とNPOの協働事例をみると、地域密着型NPOであるコミュニティ開発法人(CDCs)が大規模プロジェクトを企画し、低所得者用住宅建設と社会サービスを一体的に実施している。一方、企業はCDCsが建設する施設や周辺不動産への投融資、企業誘致、テナント開発、コミュニティ・ビジネス支援、職業訓練と雇用の提供などを行っている。

  6. サンフランシスコ市の地域開発事業は、政府および、コミュニティ開発法人以外のNPOにも多く負っている。すなわち、a.政府は包括補助金や企業の公益事業投資に対する税制優遇措置などを設けて事業環境を整備する、b.他のNPOへの助力をミッションとするNPOが、企業とコミュニティ開発法人に対して、資金仲介、地域開発関連の知見の教授、法律等に関する専門的助言やIT技術の協力等を行う。

  7. 地域開発分野におけるアメリカの協働事例は、官と民の役割分担に取り組むわが国にとって参考になる。財政危機に瀕するわが国では行政のスリム化が急務であり、公益事業やサービスを企業やNPOなどの民間セクターに開放する必要性が指摘されて久しい。指定管理者制度やタウンマネジメント機関(TMO)など、民間開放のための制度自体はすでに導入済みであるものの、実際の活動は政府関係機関にゆだねられる場合も少なくない。制度の有効活用のため、アメリカの事例を踏まえて取り組むべき点を挙げると、企業、NPO、政府の役割を見直し、各主体が得意分野で活動することで協働事業に貢献しつつ、各自もメリットを得ることが可能な体制を構築することが、とりわけ重要である。
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