コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 2007年12月号

【STUDIES】
乳幼児期の子どもにかかわる制度を再構築する-制度改革の方向と企業の役割

2007年11月25日 調査部 ビジネス戦略研究センター 主任研究員 池本美香


要約

  1. 乳幼児期の子どもにかかわる制度について、様々な方面で議論が活発化している。その背景には、少子化対策の観点から乳幼児期に注目が集まっていることや、教育問題への関心の高まりに対して、乳幼児期の教育・保育の在り方が議論されていることがある。

  2. 具体的な動きとしては、a.育児休業制度をめぐる議論、b.認定こども園制度の導入など幼稚園と保育所の連携の動き(幼保連携)、c.認可保育所の民営化や認可外保育サービス拡大の動き(保育の民営化)、d.幼児教育無償化の議論など、保育料の負担軽減に向けた動き、e.保育所等を利用していない家庭(在宅育児家庭)に対する支援の動き、f.小学校教育と就学前教育・保育との接続の在り方についての議論などがある。

  3. 一方、企業においても、次世代育成支援対策推進法に基づく認定企業が増えるなど、従業員の子育て支援に取り組む企業が増えている。また、新たな子育て支援ニーズをビジネスチャンスとして生かす事例がみられるほか、社会貢献活動の一環として子育て支援に乗り出す企業もある。

  4. 諸外国においても、乳幼児期の子どもにかかわる制度改革が活発化しているが、その背景は日本とは少し異なっている。第1に、人口減少・高齢化に対して女性労働力の活用に対する期待が強いこと、第2に、乳幼児期の教育・保育の充実が様々な社会的な効果をもたらすという研究成果が出てきていること、第3に、1989年に国連で採択された「児童の権利に関する条約」を受け、子どもの権利重視の観点から制度が見直されていること、などがある。

  5. 具体的には、a.労働時間短縮のための様々な配慮や、父親の育児参加を促進する工夫、b.保育の質の充実を目指して保育制度の所管を教育担当官庁に統合する動き、c.小学校と就学前の教育・保育の接続をスムーズにすることを狙ったカリキュラム・教員養成制度の見直しや就学準備クラスの設置、d.保育民営化のマイナス面を克服するための、民営化施設に対する補助の充実、基準の引き上げ、親の保育参加を促進する取り組み、e.保育料負担軽減のための公的補助の充実や幼児教育の無償化、f.そのほかの経済的支援として、児童手当、保育所等を利用していない家庭への在宅育児手当、育児休業給付の支給対象の拡大、などの動きがみられる。

  6. 諸外国における企業のかかわりとしては、乳幼児期の制度充実のための財源が企業の拠出によって支えられている国や、企業に保育サービスの提供が義務付けられている国などがあるほか、社会貢献活動を引き出すために、企業に報告書の公開を義務付ける動きなどがある。

  7. 諸外国における制度改革は、女性労働力率の上昇、子どもの教育環境の改善をもたらしているほか、生産性の向上、出生率の回復、行政事務の合理化による経費削減、女性の地位向上などの効果も指摘されている。日本においても、乳幼児期の制度については、出生率向上以外に、女性の就労促進、教育の質向上、子どもの権利促進などの視点を加味して、制度を見直し再構築すべきである。

  8. 具体的には、a.子育ての時間を確保できるように、労働時間短縮のための制度の充実と、それに対応した経済的支援(育児休業給付金等)および保育制度(育児休業明けやパートの保育保障等)の充実、b.保育制度については、認可外保育施設なども含めて教育施設として所管し、共通カリキュラムの適用、補助水準の引き上げ、教員養成の一元化など、c.子どもの権利擁護のための独立機関の設置、が期待される。財源の負担については、国や自治体の負担が増えるなか、経済活力とのバランスを踏まえ、法人減税を行うなど全体調整の枠組みのなかで企業の拠出率を引き上げて、児童手当制度をベースに「子ども基金(仮称)」をつくり、当面、幼児教育の無償化、認可外保育施設への補助の充実、0歳児家庭への経済的支援の充実を図ることが期待される。これにより、家族関係社会支出の水準が、フランス並みのおよそ半分のレベルとなる。

  9. 企業としては、喫緊の課題である乳幼児期の制度改革に対して、その財源について協力していくことが期待されるほか、働き方の見直しや、社会貢献活動やビジネスとしての取り組みなども通じて、積極的な役割を果たしていくことが求められている。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ