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RIM 環太平洋ビジネス情報 2006年01月号Vol.6 No.20

中国の社会変動と「中間層論」の登場

2006年01月01日 調査部 環太平洋戦略研究センター 佐野淳也


要約

  1. 中国における「中間層論」は、私営企業家等の共産党内への取り込みに反対する左派勢力に対抗するための理論的根拠として登場した。私営企業家の入党を容認する「三つの代表」論が党規約や憲法に記載され、「中間層論」は当初の目的を果たした。一方、中間層を拡大すること自体が、胡錦濤指導部の新たな重要目標として提起された。「中間層論」は、そのための理論的根拠として、今後も展開されていく可能性が高い。

  2. 「中間層論」の主流は、中国に中間層が形成され、拡大しているものの、社会の多数を占める段階には至っていないと判断する。近い将来における理想像として厚い中間層を有する社会を想定し、その実現に向けた取り組みを共産党や政府の指導者に提言しているといえよう。中間層の拡大によるメリットは、a.消費主導による高い経済成長の維持、b.社会の安定確保という2点に集約出来る。

  3. 都市世帯家計サンプル調査のデータ等を用いて、a.財産、b.収入・消費という二つの側面から、社会変動の特徴を明らかにした。その結果、すべての所得分位で貯蓄が可能になっていること、一部の耐久消費財の普及率が中・低所得世帯でも高所得世帯とほぼ同水準にあることなど、中間層の拡大を示唆する要素をいくつか確認出来た。しかし総じていえば、所得分位間の財産、収入・消費面における二極化、各階層の分散化が強くみられる。二極化が進展している一因として、税や社会保障による再分配機能が十分機能していない点があげられる。

  4. 「中間層論」が目指す理想と現実との間には、大きなかい離が存在する。胡錦濤指導部は、税や社会保障による再配分機能の強化など、二極化の是正に向けた取り組みを推進すべきである。さらに、農村から都市への余剰労働力の移動促進、出稼ぎ者に対する差別の温床にもなっている戸籍制度の改善などが、中間層の拡大につながる方策として指摘出来る。
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