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RIM 環太平洋ビジネス情報 2006年01月号Vol.6 No.20

人民元の再切り上げはあるか-中国の為替制度改革の展望

2006年01月01日 調査部 環太平洋戦略研究センター 清水聡


要約

  1. 中国が為替レートの変動を本格化させるべき理由としては、a.資本取引の自由化の前提条件として不可欠であること、b.現在の実質実効為替レートが適正な水準から乖離している可能性があること、c.外国為替市場を整備するためには、為替変動が限定的な現在の制度では限界があること、d.資本流入の拡大と外貨準備の増加を抑制するために有効である可能性があること、などを指摘することが出来る。

  2. 為替変動の本格化が遅れることにより、a.外貨準備の増加と不胎化政策がもたらすコストの増加、b.短期対外債務の増加、c.貿易財部門への過剰な投資、d.先進国の保護主義の高まり、などの問題が拡大する可能性がある。為替レートの変動を本格化させることは中国の利益に合致しており、対ドルレートの変動幅の拡大を早急に実施すべき時期に到達していると考えられる。

  3. 為替レートの変動に際しては、経済主体が為替リスク管理手法を身に付けること、金融政策の信認を高めること、外国為替市場を整備して為替リスクヘッジ手段を確保することなどが必要である。中国においてこれらを実現するには長い時間がかかるため、制度変更は段階的に進めざるを得ない。現実的なシナリオとしては、対ドルレートの変動幅を3%前後に拡大し、それを1~2年程度維持することが考えられる。そして、実質実効レートの緩やかな増価を容認しつつ、次第に中央銀行の為替介入を減らす方向に持っていくことが望ましい。

  4. 切り上げ期待が強いため、対ドルレートの変動幅を拡大すれば当面人民元に対する増価圧力が働くと思われる。名目レートの増価が10%以内にとどまれば、マクロ経済に対する影響はそれほど大きなものとはならない可能性がある。しかし、これを一挙に実施することに関しては、農業、国有企業、銀行などの脆弱と思われる部門への影響を懸念する声が強い。この点からも、制度変更に伴う影響を確認しつつ、漸進的に政策を実施していくことが望ましい。

  5. 為替政策はマクロ経済政策の一部であり、特定部門への影響には、本来は別の政策で対処すべきである。また、交易条件の改善や貿易財から非貿易財への生産シフトなどにより、内需の拡大や所得格差の縮小が生じることも考えられる。中期的に高成長を維持することが求められるなかで、為替政策に対する考え方が変化する可能性もあろう。

  6. アメリカの経常赤字の拡大などの世界的不均衡を解決する方策の一つとして、中国をはじめとするアジア諸国が為替政策を変更することが必要であるという主張がある。その効果には疑問もあるが、中国の制度変更がアジア諸国の為替政策に影響を及ぼす可能性は高い。中国は、対ドルレートの変動幅を拡大して為替レートの柔軟性を高めることにより、国際社会に対して自らの努力をアピールする必要に迫られているといえよう。
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