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Business & Economic Review 2007年11月号

【STUDIES】
個人の金融資産選択の現状と課題

2007年10月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 岩崎薫里


要約

  1. 預貯金に偏重しているわが国の個人金融資産の一部をリスク資産に振り分けるべきである、という「貯蓄から投資へ」の政策が日本版ビッグバン構想で掲げられてから10年以上が経過した。「貯蓄から投資へ」は、わが国の経済活力を向上させるというマクロ経済的な要請とともに、老後資金の確保や伸び悩む賃金の補完という観点から個々人にとっても必要となっている。これまで個人の投資を促すためのさまざまな取り組みが行われた結果、リスク商品の種類やアクセス面などで大きな改善がみられた。

  2. 過去4年間で個人金融資産残高に占める預貯金の割合が低下し、代わってリスク資産の割合が上昇しており、「貯蓄から投資へ」の流れは始動していると言える。もっとも、リスク資産の拡大は時価評価額の上昇に負うところが大きく、それに比べると個人が保有を増やしたことによる部分は小さい。巷間で注目されているほど大きなシフトが生じているわけでないことに留意する必要があろう。

  3. それに加えて、「投資へ」の参加者は依然として限定されている。一定の前提を置いて試算すると、証券の保有者は成人人口全体の18%程度に過ぎないうえ、その4分の1は株取引にほとんど関与しない「休眠株主」であると推測される。一方、証券を保有せず、「貯蓄から投資へ」の蚊帳の外にある層は成人人口全体の82%に相当する8,500万人に上った。

  4. リスク資産を保有していない人たちの多くは、将来的にも保有する意向を持っていない。この要因としては、これまでリスク資産に関する知識を習得する機会がなかったこともあって、リスクに対して漠然とした不安を抱いている、あるいはリスク資産は自分とは無縁なものと認識している、などの点が考えられる。一方、リスク資産の提供サイドがこれまで長年にわたり個人投資家を軽視してきたことも、個人がリスク資産の保有を躊躇する要因となってきた。

  5. このように、「貯蓄から投資へ」の流れはいまだ弱く、市況の悪化などを契機に頓挫する可能性は十分に考えられる。流れを定着させるためには、何よりも参加者の裾野を拡大することが重要である。「貯蓄から投資へ」が個人にとってもメリットが大きいことを踏まえると、高所得者層など一部にとどまらず、国民が広く担っていくべきものであろう。

  6. 投資の裾野を拡大するためには、以下の三つの方策が重要であると判断される。

    第1に、健全なマクロ経済運営である。ビッグバン以降さまざまな施策が講じられたにもかかわらず、「貯蓄から投資へ」が2003年央まで始動しなかったのは、長期にわたるデフレのもとで株価が低迷を続け、個人の投資意欲が殺がれたことに負うところが大きい。健全なマクロ経済運営を通じた景気の持続的な拡大、ひいては国内証券市場の活性化が、個人によるリスク資産の保有を促すのに不可欠と言える。

    第2に、国民の意識改革である。証券の非保有者のなかには投資に対する誤解や偏見を抱いている人が少なからず存在する。それらを解消するために、政府、金融業界、教育界、消費者団体など幅広い関係者が一体となってキャンペーンを展開することを検討すべきである。一方、意識改革が進む前
    提として、個人が安心して投資できる環境が不可欠であり、その実現に向けた関係者の不断の取り組みが求められる。

    第3に、証券の非保有者を投資に誘導するための仕組みである。具体例としてはまず、確定拠出年金の活用である。アメリカでは401(k)およびIRAが投資への誘導装置として作用した。わが国の確定拠出年金の使い勝手を向上させることで、このルートから個人マネーを投資に持続的かつ安定的に呼び込むことが期待できよう。

    また、証券の非保有者にアピールするようなリスク商品の提供も有効であろう。この層は資金的余裕がさほどあるわけでなく、投資に関する知識も豊富とは言えないうえ、投資について勉強するのはもとより、投資にかかわる細かな管理を行うほどの時間的な余裕もない。そうした事情に配慮したリ
    スク商品を提示できれば、保有に乗り出す可能性は十分ある。例えば比較的単純な設計で低コストの投資信託を、定額積み立て方式で購入できる仕組みとし、毎月の積立額を柔軟に変更可能にする。これまで多くの金融機関はこの層の開拓に積極的に取り組んでこなかったものの、潜在市場は大きく、収益機会の拡大につなげられると判断される。
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