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Business & Economic Review 2005年04月号

【STUDIES】
わが国における地域自治組織の在り方

2005年03月25日 調査部 経済・社会政策研究センター 主任研究員 高坂晶子


要約
  1. わが国では、1990年代以降、地方自治システムの改革が重要な政策課題となるなかで、現行自治体の在り方を見直す作業が進行中である。
    その一環として市町村合併が積極的に推進されつつあり、次の課題として、国が都道府県と市町村からなる現在の2層制を補完する自治組織を制度化し、地方に選択的な設置、活用を認める構想が浮上している。すなわち、市町村より狭い「地区」が住民の自己決定に基づいて地域ニーズに即したきめ細かい施策を行う地域や、都道府県を統合した「道州」が経済振興や交通網整備など広域的課題に効率的に対応する地域を認める構想である。
    この二つの構想のうち、市町村を地区に分ける「地域自治組織」の具体化が先行している。その理由として、合併で統合される市町村の間から、旧自治体を単位とする自治の仕組みの維持を求める声があがったという事情がある。

  2. 狭域の自治組織はわが国に限ったものではなく、とくに欧州諸国において、地域自治組織が積極的に導入、活用されてきた。市町村合併に伴う先行事例も豊富であり、わが国が狭域自治制度を導入するうえで参考となる。各国の仕組みを略述すると以下の通りである。
    イギリスとくにイングランドの自治組織「パリッシュ」は、合併によって行政機関から遠くなった地区で日常生活に密着した公共サービスを提供したり、地域開発など地区に大きな影響を与える問題について、住民の意見を自治体に伝える。
    ドイツの「自治体内下位区分」は、合併によって議員定数が削減された地区等のニーズや意向を集約し、行政機関に伝えて施策に反映させる役割を担う。
    スウェーデンの「地区委員会」は、合併で統合された旧市町村が基礎自治体「コミューン」から企画、執行権限の委譲を受け、地域により異なる行政課題の解決のため、分野横断的な施策を実施する。
    フランスの「地区協議会」は、2002 年に中規模以上の都市に設置義務が課された新設の制度で、行政施策に対する住民の意見、評価、提案を市当局に伝える。
    イタリアの「地区議会」は、当初大都市によって設置された自治組織を、国が制度化した仕組みで、地区住民の意見・ニーズの集約と伝達、条例の提案等を行う。

  3. 欧州の組織の共通点を挙げると、a.国の役割は法律で自治組織の設置根拠等を定めることにとどまり、詳細なスキーム(仕組み)については市町村と地区にゆだねる、b.住民が自治組織の運営に日常的に参画するための仕組みが存在する、c.自治組織の基本機能は、住民の意見を基礎自治体に伝えることにあり、能力と意欲のある自治組織はこれに加えて、住民の要望する事業や公共サービスの実施権限を市町村から委譲される。これらの共通点は、自治組織を有効に機能させるうえで重要なポイントといえる。

  4. 今回、わが国に新設される地域自治組織は、合併特例区と地域自治区に大別され、後者はさらに一般制度と合併特例制度に分けられる。各自治組織には地域住民を代表する協議会が設置され、市町村の出張所である事務所も置かれて自治体職員が派遣される。自治組織の基本機能は、首長の諮問に応えて意見表明を行うことで、地区の重要事項に関する自発的な提案等も認められるものの、市町村の固有事務や条例の制定が必要な事務などを行うことはできないとされる。

  5. 近年、わが国で急速に地域自治組織の設置機運が高まった背景には、一連の地方自治システム改革、すなわち地方分権、市町村合併、地方行革、官業の民間開放等が密接にかかわっている。今後も自治システム改革が続くなか、その一環である地域自治組織が有効に機能し、住民自治を強化する役割を果たすことが期待される。
    そのためには、現行制度の抱える課題を解決する必要がある。とりわけ、a.国が細部まで細かく規定する現在の制度を見直し、自治体や地域が自治組織の在り方を自由に規定することを認める、b.地域住民の主体的な参画を促すと同時に、自治組織が地域を代表する機関であることを確認する手続きを法制化する、c.自治組織が住民の意向に基づき、事業分野や種類、実施体制を選択したり、提供するサービス水準やコスト負担方法を自己決定できる環境を整える、の3点が重要である。
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