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Business & Economic Review 2006年05月号

【FORECAST】
開発途上国BRICsの脆弱性を検証する

2006年04月25日 調査部 環太平洋戦略研究センター 主任研究員 三浦有史


要約

  1. BRICsが注目されるきっかけとなったのは2003年に発表されたゴールドマン・サックスのレポートである。しかし、同レポートは、各国がどのような制約を抱えているかについて驚くほど無頓着である。BRICsはいずれも所得水準の観点からは開発途上国に分類され、汚職などの問題と無縁ではない。また、グローバル化の進展によって世界経済は共変的になっており、BRICsを取り巻く環境は日々複雑化しつつある。これらの問題にどのように対応するのかという点も明らかではない。

  2. 近年の開発途上国向けの外国直接投資および証券投資をみると、BRICsのシェアが急速に上昇している。一方で、対外開放政策によって各国は必然的に外的環境の変化を受けやすい経済国「となり、過剰な外貨準備の積み増しなどのリスクが高まりつつある。各国政府には所得水準を上回る高い能力が要求されているが、政策の整合性を維持しながらそうした問題を乗り切ることができるかどうかは定かでない。

  3. ゴールドマン・サックスのシミュレーションの前提には再考の余地がある。第1は、モデルの妥当性である。GDP成長率が労働、資本、技術進歩の三つの投入要素によって決定されるというモデルは、発展段階や統計に一定の均質性が備わっていることを前提としており、開発途上国を含めた場合、モデルの有効性が著しく低下すると考える必要がある。第2は、キャッチアップ仮説の妥当性である。開発途上国はコストをかけずに先進国の技術を導入でき、しかも所得水準が低いほど、その余地が大きいという同仮説を支持する実証研究は少ない。また、本来、資本ストックと労働人口の増加率で説明できない成長率の残差であるTFP(totalfactorproductivity)を、技術水準に置き換えたことでTFPを高く見積もっている可能性が高い。さらに、開発途上国では経済成長の変動幅が大きく、成長率の低下に伴い貧困や所得格差の問題が先鋭化するリスクを無視している。

  4. 以上の検証から、BRICsの経済発展の行方を見極めるには、政策や制度に代表される政府の能力や企業を取り巻く事業環境が重要であることがわかる。世界銀行のガバナンス指標やヘリテッジ財団らによる経済自由度指数を用いて、BRICs各国の政府の迫ヘや事業環境が開発途上国のなかでどのように位置付けられるかをみると、いずれの国の評価も低いことがわかる。ガバナンスについては、所得水準からみたレベルが相対的に高く、改善も進んでいるのはインドだけで、ロシアとブラジルはレベルが低く、改善も進んでいない。中国はレベルこそ低いものの、改善が進んでいるといえる。事業環境についても所得水準からみたレベルが相対的に高く、改善も進んでいるのはインドだけである。ブラジル、ロシア、中国は改善が進んでいるもののレベルが低い。

  5. 事業環境と政府の能力との関係をみることも重要である。両者の間に相関はないものの、ガバナンスと経済自由度の乖離が長期的に続くとは考えがたく、両者がどの程度乖離しているか、またそれぞれが改善に向かっているか否かによって経済発展の持続性が異なる。ブラジルとロシアはガバナンスの絶対的なレベルが高いことから、経済自由度が上昇する余地がある。しかし、ガバナンスの改善が進んでいないため、必ずしも経済発展の持続性が高まっているとはいえない。インドは小幅ではあるがガバナンスの改善が見られることから、経済自由度も上昇し、経済発展の持続性は高いといえよう。中国はガバナンスに比べ経済自由度が高く、事業環境は不安定であると見なすことができる。ただし、ガバナンスの大幅な改善が進んでおり、経済発展の持続性が高まるものと期待される。

  6. ゴールドマン・サックスのシミュレーションを達成する条件をどの程度備えているかによって各国を分類すると、インドが最もその可能性が高い第1グループ、中国がそれに次ぐ第2グループ、ブラジルとロシアが第3グループに入るといえよう。しかし、政府の能力や事業環境と経済発展との因果関係は明らかではないため、各国が持続的な経済発展を遂げるか否かを一律に判断することはできない。BRICsが大きなポテンシャルを持っていることは確かである。だからこそ、各国がおかれた状況および政府がどのように諸課題に取り組もうとしているのかを把握し、各国の等身大の姿を見失わないようにしなければならない。
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