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Business & Economic Review 2007年07月号

【REPORT】
イギリス景気拡大における金融政策の役割-日本の金融政策へのインプリケーション

2007年06月25日 調査部 マクロ経済研究センター 研究員 野村拓也


要約

  1. 本稿では、イギリスにおいて金融政策が持続的な経済成長にどのように寄与したかを探るとともに、現行の金融政策の限界について検証する。また、イギリスの金融政策の成功と限界を踏まえたうえで、安定成長が求められる日本にとってのインプリケーションを導出する。

  2. イギリスでは、1992年以降息の長い景気拡大が持続している。とくにこの10年は、安定的な景気拡大傾向が顕著である。この背景には、市場原理の導入をテコに経済体質が改善したことがあるが、BOE(イギリス中央銀行)による機動的な金融政策運営が果たしてきた役割も見逃せない。現在のイギリスの金融政策は、インフレターゲティング政策を採用しており、これが長期安定成長への契機となった可能性がある。

  3. インフレターゲティング政策を導入するにあたっての最大の問題は、事前に「最適なターゲット」を規定するための方法がないことである。そのためBOEは、ターゲットを変更するなどの制度変更を繰り返し、「最適なターゲット」を模索した。加えて、足許の政策金利水準についてはインフレ期待に連動する形で金融政策を運営してきた。結果として、足許の物価動向に過度に拘束されることなく、市場の期待を一定範囲内にコントロールしながら、将来の経済・物価の安定を図ろうというフォワードルッキング(先見的)な政策運営が可能になった。

  4. また、BOEが97年6月に大蔵省から独立したことが、インフレターゲティング政策の効力向上に大きく寄与した。BOEは月1回MPC(金融政策委員会)を開催し、多数決で政策金利を決定する方法を採用している。MPC参加メンバーの政策金利バイアスと物価に連動性があることは、こうしたMPCによる金融政策の運営が物価のコントロールに効果的に働いてきたことを示唆している。

  5. イギリスのインフレターゲティング政策についての評価は「成功している」とするものが大半である。こうした成功の要因として、「サービス経済化」が進展したことも見逃せない。一般的に財価格は海外の影響を多分に受けざるを得ない一方、サービス価格は国内の要因が色濃く反映される。そのため、国内の期待インフレ率をコントロールするインフレターゲティング政策は、サービス価格においてより効果を発揮しやすい。インフレターゲティング政策は、「サービス経済化」が並行して進展したことで、物価安定に対する効果を一段と発揮することができたと考えられる。

  6. このように物価安定が定着するなか、BOEは、金融政策の第2の目的でもある「景気に配慮した政策運営」を追求することが可能になった。とりわけ注目されるのが住宅価格を意識した政策運営である。これにより実現した持続的な住宅価格の上昇は、家計の担保余力拡大に寄与し、その結果家計は借入を増加させ、資産効果やキャッシュアウトを通じて個人消費の持続的拡大を支えた。

  7. もっとも、足許の状況を仔細に分析すると、長期安定成長に貢献したイギリスのこうした金融政策にも限界がみえはじめている。個人消費拡大に伴う家計債務の増大により、家計のバランスシートが悪化し、金融政策の景気に対するコントロール力が薄れてきている。

  8. 金融政策の有効性を回復するためには、家計のバランスシート改善が必須である。もっとも、持続可能な水準まで家計債務を圧縮するためには、短期間では、個人消費に多大な影響が出てしまう。長期間かけて圧縮する場合は、資産効果の減退により個人消費は力強さを欠く展開が長引くことを覚悟する必要がある。

  9. 以上のようなイギリスの事例から、今後の運営方針が問われている日本の金融政策に対し、二つのインプリケーションを導き出せる。第1は、インフレターゲティング政策を導入する際には、政策運営においてより一層の柔軟性・透明性を確保する必要があること、第2は、不動産バブルの発生を未然に防ぐことを強く意識した金融政策スタンスをとること、である。
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