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Business & Economic Review 2007年01月号

【STUDIES】
金融制度改革の進展とこれからの銀行業

2006年12月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 野村敦子


要約

  1. わが国の金融業界は、戦後永らく、参入規制、業務分野規制、金利規制、店舗規制など様々な規制が課せられてきた。こうした競争制限的な規制が設けられてきた背景には、戦後の経済・産業の復興を進めるにあたって、限られた金融資源を有効に活用する必要があったことがあげられる。しかし、わが国経済は高度成長期を経て安定成長期に入り、経済構造の変化や経済活動のグローバル化の進展、金融技術・情報技術の急速な発達、利用者のニーズの多様化・高度化など、金融業界を取り巻く環境は著しく変化することとなった。こうした金融の構造変化への対応が必要とされていたものの、競争制限的な規制の存在が金融システムの硬直化をもたらし、金融業界や金融市場の更なる発展を阻害するようになっていた。

    そこで、金融システムの利便性・効率性を高め、国民の金融サービスに対するニーズの多様化・高度化に対応可能とするために、金融制度改革が進められることとなった。

  2. 金融制度改革への取り組みを「業務の自由化」に焦点を当ててみてみると、まず、業態間の相互参入について、93年に業態別子会社方式による相互参入が可能になった。さらに、98年には純粋持株会社設立の解禁により、金融持株会社傘下に複数の業態の金融子会社を保有することも可能となった。銀行本体で取り扱い可能な業務の範囲についても、投資信託や保険商品の銀行窓口での販売、証券仲介業の創設、信託業への参入の緩和など、段階的に拡大が図られている。

    また、非金融業の銀行業への参入に関しては、2002年の銀行法改正によりルールが整備されたほか、これまで銀行の100%出資子会社に限定され、兼業禁止となっていた銀行代理店について、これらの規制が撤廃され、2006年4月より一般事業者による銀行代理業への参入が可能となっている。これにより、他業態の金融機関ばかりでなく、既存の販売網を活用可能なコンビニエンスストアやスーパーマーケット、自動車ディーラーなどの銀行代理業への参入が期待されている。

  3. わが国同様に、諸外国においても金融制度改革が進められている。アメリカでは、1933年銀行法(通称グラス・スティーガル法)に基づき、銀行と証券が厳格に分離されてきた。しかし、80年代に入ると、金融の自由化が進展し、銀行持株会社の子会社による証券業務への参入や保有債権の証券化への取り組みが活発化するなど、実務面で銀行業務と証券業務の融合が進むこととなった。こうした環境変化に対応するために、従来の規制の在り方を抜本的に見直す必要性が高まり、グラム・リーチ・ブライリー法(GLB法)が制定されることとなった。GLB法の主な内容としては、a.グラス・スティーガル法における銀行・証券分離規定の一部の撤廃、b.銀行持株会社に加え、新たに金融持株会社制度を創設、c.「機能別規制」(functional regulation)の導入、d.顧客情報保護に関する規定、などがあげられる。

    また、アメリカでは、銀行と一般事業会社の相互参入は認められておらず、銀行持株会社が商業分野の株式を保有することについても禁止されている。そこで、銀行業以外の金融機関や一般事業会社は単一貯蓄金融機関持株会社(UTHC)や産業金融会社(ILC)を通じて銀行業に参入している。これに対し、経済的に多大な影響力を持つ一般事業会社により、法の抜け穴を使った銀行業への参入が進展すれば、金融システムの安定性などに重大な影響を与えることが懸念されるとして、アメリカ銀行協会などは銀商融合には反対する姿勢を表明している。

    なお、GLB法の制定により、大手銀行などが金融持株会社を利用して大規模金融グループを形成する動きがみられる。FRBのレポートによれば、2005年末現在、銀行持株会社の資産の84%は金融持株会社が保有しているということである。ただし、銀行業と保険業の融合にまでは発展しておらず、銀行と保険会社の提携による銀行窓口を通じた保険商品の販売にとどまっている。

  4. アメリカでは長い間、銀行業と証券業が分離されてきたが、ヨーロッパでは、従来から銀行業と証券業との兼営(ユニバーサルバンク)、銀行と保険会社との相互保有(バンカシュランス)が広く認められてきた。もともとドイツでユニバーサルバンク制度が発展してきたが、89年のEU第二次銀行指令により、EU全域においてユニバーサルバンク制度を採用することが可能となった。ちなみに、イギリスではドイツのように銀行本体で証券と保険を同時に営むのではなく、持株会社の傘下に証券業務、保険業務等を営む100%子会社がそれぞれ存在する持株会社方式のユニバーサルバンク(グループバンキングとも呼ぶ)が一般的である。

    EUでは、第二次銀行指令の発効後、複数の金融業務を手がける大規模金融グループが登場しており、こうした状況に対応するため、業態ごとに分立していた監督機関を、金融業務全般の規制・監督を行う単一組織に統合する動きがみられる。さらに2002年12月には、業態を超えた金融再編が進むなか、EUにおける金融システムの安定を確保するため、金融コングロマリットまたは銀行・証券グループについて連結ベースでの監督を行うこと等を規定した金融コングロマリット指令が採択された。なお、ヨーロッパでは、銀行と一般事業会社の間の相互参入について、出資制限の範囲内であれば認める国が多い。代表的な事例として、イギリスにおける小売業の銀行業への進出があげられる。

    ヨーロッパにおける金融制度改革後の主要国の動向をみると、イギリスでは子会社を通じた業態間の相互参入が進んでいるほか、スーパーマーケット等の非金融業による金融サービスの提供も消費者の間で定着している。フランスではバンカシュアランスが発達しており、ほとんどの銀行が保険子会社を保有して、保険商品の販売・引受の両方に従事している。ドイツでは、銀行・証券・保険業務を包含する金融コングロマリット(いわゆるアルフィナンツ)を形成する動きが出てきている。

  5. このように、わが国だけでなく海外においても、金融制度改革により、業務分野規制の緩和や業務範囲の拡大が進められ、総合金融サービス業等を展望したグループ形成の動きが進展している。わが国銀行業においても、a.同業金融機関間における統合・再編、b.金融商品・サービスの製造・販売体制の再編成、c.非金融業の銀行業への参入や新しい業態の登場、など、従来からのビジネスモデルに変化を与える動きが出てきている。

    銀行に求められる機能についても、預金者と借り手を直線的につなぐ単純な仲介機能から、市場を介在させ、多様な資金の運用者と多様な資金調達者との間を複線的に仲介する機能(情報の仲介、資金調達の仲介、資産運用の仲介、リスクの仲介など広範な意味での仲介機能)へと進化しつつある。こうした変化に伴い、わが国銀行業の経営形態も、総合金融サービス業を目指す動き、分業化により専門特化型金融サービスを目指す動き、地域密着型金融サービスを目指す動きなど、多様な選択肢に分かれていくことになろう。

    また、銀行と一般事業会社の関係については、非金融業の銀行ビジネスへの参入と、これとは逆に銀行による非金融業への進出の問題と、二つの側面からの議論がある。前者については、銀行代理業制度の活用等、両者の戦略的提携により、新たな金融商品やビジネスモデルの開発、高度なリスク管理体制の構築など、金融市場のさらなる発展に資することが期待される。一方、後者の問題については、ただちに結論を求めることが困難ではあるものの、銀行が総合金融サービス業への発展を展望し、新しい技術の導入や多様なビジネスモデルの実現を図ろうとするなか、その制約となる規制については、銀行経営の健全性の維持やリスク管理の徹底といった前提は堅持しつつ、その今日的な意義を再確認し、必要に応じて見直しを検討するなど、柔軟な対応が求められよう。
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