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リサーチ・レポート No.2021-013

G7各国は増大した債務をどう圧縮していくか-歴史からの教訓-

2021年07月30日 牧田健


先進国では、コロナ禍により財政赤字・公的債務が増大するなか、景気動向とバランスを取りながら財政健全化に着手していかなければならない。利払い費を一定の水準以内に抑え続けておくことが財政健全化の当面の目標となるが、これ以上の金利低下が期待できない以上、公的債務対GDP比(以下、「債務比率」)の低下が財政健全化で目指すべき目標となる。

債務比率比低下には、①国債の実効金利を名目成長率を下回る水準に維持(r<g)、②プライマリーバランス黒字化という2つの方法があるが、前者は持続性に欠けるため、結局プライマリーバランス黒字化が不可欠となる。景気が拡大するとプライマリーバランスも改善していくが、わが国では▲2%前後の構造的なプライマリーバランス赤字があり、景気回復だけでは黒字化は達成できない。

過去のG7各国での取り組みをみる限り、財政引き締めが必ずしも景気悪化を招くわけではない。GDPギャップが拡大したケースをみると、第1に潜在成長率対比で財政緊縮幅が過大になっている、第2にGDPギャップがプラスになってから財政引き締めに着手している、第3に歳出の圧縮を伴っていない。これらを踏まえると、景気の足取りが盤石になるのを待つことなく財政引き締めに取り組む一方、財政緊縮幅は小幅にとどめ、その手法も歳出削減を中心としたものにしていく必要がある。

第二次世界大戦後のイギリス・アメリカの債務比率低下局面をみると、両国ともに主にインフレ高進が債務圧縮に作用した。国際的な資本取引が制限されるなか、経済実態以上に低い金利を続け、インフレを促進することで債務を軽減するという「金融抑圧」が可能だったことが背景にある。このうち、イギリスでは、債務圧縮は限定的で、インフレ依存度が高かったが、その代償として社会福祉費増大等により生産性が低下するという「英国病」が進行し、最終的には1976 年にポンド防衛のためにIMF支援を余儀なくされた。アメリカも、日本やドイツ経済の復興に伴い国際競争力が低下し、金ドル本位制を維持できなくなった。こうした両国の地盤沈下は、その後のサッチャー・レーガン革命につながり、その間失業率は10%台まで上昇、厳しい経済構造改革を余儀なくされた。

ドイツ、イタリア、カナダでは、新型コロナ対応で打ち出された施策を縮小していけば自ずとプライマリーバランスは黒字化すると見込まれるが、構造的な財政赤字を抱える日本、アメリカ、イギリス、フランスでは、いずれかの時点で追加の財政引き締めに着手する必要がある。このうち、経常収支赤字を抱えるイギリス、フランスでは市場からの圧力もあり財政健全化に向けた動きが進むと見込まれる一方、経常収支黒字の日本、基軸通貨ドルを抱えるアメリカでは、市場からの圧力が必ずしも強くなく、財政健全化に向けた動きが停滞する可能性がある。

わが国にとって、潜在成長率の低さ、財政赤字の主因が社会保障の財源不足であること、さらなる「金融抑圧」の実現可能性の低さ、等を踏まえると、財政健全化はますます高いハードルになっていく。しかし、その取り組みを放棄すれば、経常収支黒字を維持することができなくなり、財政ファイナンスを海外資金に依存せざるを得なくなった時点で、より一層厳しい緊縮財政を余儀なくされるのは必至である。したがって、財政健全化と経済成長との両立に向けた対応が不可欠である。

わが国の処方箋として、第1に、潜在成長率を引き上げていく必要があり、財政をより賢い支出(ワイズ・スペンディング)に振り向けていかなければならない。第2に、景気の勢いが一番強いのは景気回復初期・中期であり、今冬にも財政健全化に向けたタイムテーブルを提示していく必要がある。第3に、歳入増加を図るに当たり、わが国経済の体力を踏まえ小刻みな増税を粘り強く続けていく必要がある。第4に、可能な限り長期にわたって低金利を続けていくことも欠かせない。

わが国では、現状経常収支黒字が確保されているが、先行き仮に経常収支が赤字に転じた場合のマイナス影響を踏まえると、財政支出拡大は極めて危機的な状況への対応に限るべきである。むしろ、経常収支黒字を維持している間に経済に過度な負荷をかけない形で着実な財政健全化を図ることを第一に考えていくべきであろう。


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