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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.21,No.80

数値からみた中国の一帯一路構想の実像ー「親中」国を増やすために推進

2021年02月15日 佐野淳也


2013年に習近平国家主席が一帯一路構想を打ち出した背景には、①TPPへの対抗、②海外需要の掘り起こし、③中国の内陸地域振興、の3点が挙げられる。2017年、アメリカがTPPからの離脱を表明したことにより、TPPに対抗する必要性は後退したものの、アメリカの対中政策の強硬化と自国第一主義への傾倒により、政治的に「親中」の立場をとる国を増やす必要性が高まった。そのため、習近平政権は、一帯一路によって貿易、投資、援助を拡大して「親中」国を増やすことを目指すようになった。

同構想に賛意を示し、一帯一路に関する協力覚書に署名した国(以下、協力覚書署名国)は発展途上国を中心に100を超えた。わが国で一帯一路が広域経済圏構想と称される背景には、署名した国の数や地理的な広がりが大きいことがある。しかし、協力覚書はあくまで中国との二国間で結ばれており、その内容は明らかにされていないため、それが広域経済圏の足掛かりになっているか否かは定かではない。一帯一路が広域経済圏に向かって進んでいるのかどうかを判断するためには、覚書を結んだ国と中国との関係を詳細に分析する必要がある。

そこで本稿では、中国との結びつきの強弱を表す指標を用いて、協力覚書署名138カ国の対中経済・政治関係をそれぞれ数値化し、対中関係の緊密度を測定した。分析の結果、アジアの37カ国は中国との関係が総じて緊密であることが確認出来
る。一方、欧州、大洋州、中南米では経済・政治のいずれか、あるいはいずれも結びつきの弱い国が多い。138カ国の対中関係には大きなばらつきがあるため、現時点において一帯一路を広域経済圏構想とみなすのは実態にそぐわないといえ。

主な国をみると、カンボジアは2020年10月に二国間FTAを締結するなど、中国への経済依存を強めている。結果、同国は138カ国のなかで、中国との経済的な関係が最も緊密で、政治的な結びつきも強いといえる。一方、ロシアは政治的には緊密であるが、経済的な関係は強くない。

バイデン新大統領となってもアメリカの対中強硬論が和らぐ可能性は低く、一帯一路は中国包囲網の切り崩しが喫緊かつ最も重要な目的になると考えられる。すでに、中国はアフリカなどで「親中」国を確保しており、国連で孤立することはない。今後はG20における「親中」国の確保が課題となる。G20のメンバーには7カ国の協力覚書署名国がある。優秀なIT技術者の育成、脱石油依存型の産業振興といった分野で協力の実績を積み上げ、経済関係の弱い国との関係緊密化を図るのではないか。

また、一帯一路では「質の重視」という方針の下、デジタル産業や公衆衛生など幅広い分野での協力、ハイレベルの二国間・多国間FTAの締結が推進され、現在のインフラ整備中心の協力関係はより高度な段階へと引き上げられる見込みである。ただし、関係国の対中貿易赤字の拡大と中国国内世論の海外支援に対する支持低下が構想の進展を阻む要因となる可能性がある。
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