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【次世代交通】
持続可能な運送サービスを実現させるための施策

2020年02月26日 石川智優


 日本は交通をめぐる様々な課題を抱えている。利用者減少による交通事業者の事業採算悪化、自動車運転手不足、高齢化に伴う自動車運転免許証返納数の急増、地方における自家用車依存……等々、挙げればきりがない。これらはいずれも待ったなしの状況まできている。

 一般路線バス事業者の輸送人員は、三大都市圏を除いて年々減少傾向にあり、地方部においては2000年から2016年にかけて約24%減少している。一般路線バス事業者の約64%が赤字事業者であるなど、地域公共交通分野は厳しい経営状況にある。
 三大都市圏の交通手段依存率は自家用車も高いが比較的鉄道の高さが目立つ。一方、地方部においては70歳以上という高齢者含め、全体的に自動車への依存率が高い。

図1



図2



 また、高齢社会の進展とともに免許返納の数は近年大幅に増加している。自動車免許証返納者数は高齢化に伴い年々増加しており、平成21年から30年までの10年間で8倍に増えている。今後さらに増加するものと思われる。

図3



 上述の「公共交通の衰退」「交通手段の自動車依存」、そして「免許返納数の増加」を考慮すると、既存の交通手段の見直しや新たな交通手段の確立が喫緊の課題であることが分かる

 これらを総合的に解決する手段として、近年、自動運転やMaaS(Mobility as a service、以下「MaaS」という)などが検討されてきた。しかし、自動運転に関しては諸々の課題解決に求められる自動運転レベル4や5といった技術レベルを日本全国に社会実装するまで、上記課題に関する危機的状況は待ってはくれないだろう。MaaSに関してはこれからも様々な取り組みが進められるだろうが、どこまで上述の課題解決に資するかは未知数である。

 このような状況を打破する足掛かりとして、先日(令和2年2月7日)「持続可能な運送サービスの提供の確保に資する取組を推進するための地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律案(予算関連法律案)」が閣議決定された。今後さらに具体的に審議されるものと思われる。今回の法案では一部法律の改正が中心であり、大きく下記がポイントとなる。
・地方公共団体による「地域公共交通計画」(マスタープラン)作成の促進
・地域における協議の促進
・維持が困難となったバス路線等について、多様な選択肢を検討・協議し、地域に最適な旅客運送サービスを継続
・過疎地等で市町村等が行う自家用有償旅客運送の実施の円滑化
・鉄道・乗合バス等における貨客混載に係る手続の円滑化
・MaaSに参加する複数の交通事業者の運賃設定に係る手続のワンストップ化、MaaS協議会制度の創設

 冒頭に様々な課題を書いたが、今回の法案の中でそれらの課題に資する可能性のあるものとして「過疎地等で市町村等が行う自家用有償旅客運送の実施の円滑化」に着目したい。

 道路運送法改正案の第五章第七十九条の二において、下記の記述が新設されることになる。
『~(略)自家用有償旅客運送自動車の運行管理の体制の整備その他国土交通省令で定める事項について一般旅客自動車運送事業者の協力を得て行う運送(以下「事業者協力型自家用有償旅客運送」という。)を行おうとするときは~(略)』
 すなわち、旅客運送に係る事業認可を保有していない団体等が一般旅客自動車運送事業者に協力してもらうことで、有償での旅客運送ができるということである。ここでの「協力」が具体的にどのようなものになるかが非常に重要である。どの程度まで自家用有償の旅客運送事業に交通事業者が関与するのか、そのバランスをとらなければ交通事業者にとっても利用者にとっても不便なものになりかねない。

 そして、第七十八条二項において、利用者の対象については『地域住民又は観光旅客その他の当該地域を来訪する者の運送』とされている。つまり、法案が通れば自家用有償旅客運送においても利用者の対象は市町村の区域内の住民に限らず、観光客などの地域を来訪する者まで含まれるようになるということである。
 不特定多数に対する自家用有償旅客運送事業を簡単にできてしまうと、いわゆる白タク行為が容認されることになる。このため交通事業者の協力を必要とすることで、その懸念を払拭するのだろう。

 交通課題により地域自体が衰退することは、地域に根差す交通事業者の衰退につながることと同義である。しかし、利用者の利便性ばかりを追求しては交通事業者の事業性や安全性の確保の視点を忘れては元も子もない。
 地域に根差す交通事業者の利益を確保しつつ、地域住民や地域を訪れる観光客等の移動の利便性を確保し続けなければ運送サービスの持続は難しい。この両立は簡単なことではないが、今回の法案が成立すれば、新たな自家用有償旅客運送制度の適用を目指す地域も出てくるだろう。そのときに、いかにして「地域の交通事業者の利益」と「住民をはじめとした利用者の利便性」のバランスをとるかが重要な視点となってくるだろう。


 (参考)「持続可能な運送サービスの提供の確保に資する取組を推進するための地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律案」を閣議決定
~持続可能な運送サービスの提供の確保に資する取組の推進に向けて~
http://www.mlit.go.jp/report/press/sogo12_hh_000173.html


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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