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JRIレビュー Vol.11,No.72

デジタル課税が税収・企業負担に及ぼす影響と導入に向けた課題

2019年12月10日 蜂屋勝弘


1.インターネットを介し国境を越えてサービスやデジタル商品等を提供する企業(デジタル企業)が急成長している。こうしたなか、デジタル企業の法人税負担が店舗を構える等の伝統的な方法でビジネスを行う企業(伝統的企業)に比べて低いとされ、国際社会で問題視されている。

2.国境を越えて活動するデジタル企業の法人税負担が低いとされる理由として、①国外からデジタルサービスを提供する企業に対して課税する権利が、デジタルサービスを利用する国(消費国)側にない、②デジタル企業が本来負担すべき税負担を様々な対策を駆使して意図的に回避している、との指摘がある。いずれにせよ、現行の法人課税の国際ルールが経済のデジタル化に対応できていないためであり、デジタル経済下での新たな国際ルールづくりがOECDを中心に進められている。

3.多国籍企業による税負担の意図的な回避に対しては、かねてよりOECDを中心に対応策の議論が重ねられてきた。その際、電子商取引に対する課税の在り方も重要テーマの一つとして取り上げられ、2015年には、国外企業が国境を越えて提供する電子書籍等にも消費税が課せられるよう、消費課税に関する新たな国際ルールが策定・勧告された。しかしながら、法人課税については、各国の利害が錯綜するため、国際ルールの策定・勧告には至らず、2020年の合意を目指し議論が続けられている。

4.OECDでの議論と並行して、欧州委員会でもEU域内でのデジタル課税の導入が検討され、2018年に「長期的な対応策」と「暫定的な対応策」の2案が提案された。「長期的な対応策」は、国内に従来型の「恒久的施設」がなくても、デジタルサービスからの一定基準を超える売上高等があれば、課税を可能にする案である。他方、「暫定的な対応策」は、「長期的な対応策」が実現するまでの暫定措置として、一定規模以上の企業に対し、デジタルサービスからの売上高に課税する案(デジタルサービス税)である。また、イギリスやフランスなどが単独でデジタルサービス税を導入する動きを見せている。いずれもEUの「暫定的な対応策」と同様の売上税であり、仕入額に含まれる売上税相当額が控除されないことから、流通段階での売上税が積み上がり、消費者向けの販売価格に上乗せされるとの問題点が指摘されている。

5.デジタル経済下での法人課税の国際ルールについては、「恒久的施設」の概念の拡大や定義の見直しによって、国外の企業の活動に対する各国の課税権や収益の帰属先を、従来よりも消費国側に厚くする方向で議論が進んでおり、具体案としてOECDから、①「ユーザー参加量」案、②「マーケティング上の無形資産」案、③「重要な経済的存在」案の3案が示された。また、法人税負担回避への対応策として、①低課税国の子会社の所得を親会社の所得と合算して課税する措置、②低課税国の子会社への支払いの損金算入を認めない措置の2案が提案されている。

6.OECDが示した課税ルール3案の第1案は、イギリスによる提案とされ、対象は「高度にデジタル化されたビジネス」に絞られている。こうしたビジネスへの課税権等の一部が消費国側に移るため、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)といった巨大デジタル企業の所在するアメリカにとっては不利な案とされる。第2案は、アメリカによる提案とされる。ブランド価値等のマーケティング上の無形資産に着目することで、デジタル企業に加え、伝統的なBtoC企業なども対象となる。マーケティング上の無形資産は消費市場が大きいほど蓄積されていると考えられるため、アメリカに一定の恩恵が及ぶ案とされる。第3案はインド等の新興国による提案とされる。対象はデジタル化されたサービスに限られるものの、見直し対象となる収益の範囲が広く、計算方法も簡便であるため徴税体制が脆弱な新興国でも比較的容易に対応できるといった実務上のメリットが指摘されている。

7.現在のわが国は、国境を越えたデジタルサービスの消費国とみられ、デジタル企業への課税権等が消費国側に移ると、わが国の税収にプラスになると考えられる。一方、消費財については、わが国は乗用車等を中心に供給国であるものの、現在のビジネスモデルが、消費国側に設立した販売会社を通じて取引を行うという伝統的なスタイルであることを踏まえると、すでに、消費国側で課税されているとみられ、国際ルールの変更によるわが国の税収へのマイナスの影響は限定的と考えられる。
他方、わが国の企業負担への影響をみると、わが国の主要な輸出相手国の法人所得税率は、わが国の法人所得税率(国・地方合計で29.74%)よりも低い。このため、課税権等が消費国側に移り、諸外国の税率が適用される場合、国内の輸出企業には、税負担が軽減されるケースが多いと考えられる。

8.今後の各国間の調整が進み、新たな国際ルールが合意できたとしても、①「ユーザー参加量」や「マーケティング上の無形資産」などをどう把握するか、②企業による税の過少申告を税務当局が把握できるか、といった問題が残されている。今後導入される公算のデジタル課税を、税負担が公平・公正で、かつ実効性の高い税制とするには、デジタル企業に独占されている個人データを含む各種データを課税など公益目的で利用するためのルールづくりが重要であり、租税論の枠組みにとどまらない幅広い観点からの検討が不可欠である。
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