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【スマートインフラ】
変わりゆくスマートシティのあり方2019年

2019年11月12日 七澤安希子


 先月、10月9日に横浜でグローバル・スマートシティ・アライアンス(※)設立会合が行われた。内閣府と世界経済フォーラムが主導するこのグローバル・スマートシティ・アライアンスは、グローバルでの都市間連携を進め、テクノロジーやデータ収集・使用等における失敗事例の共有およびグローバル共通の基準作りに向けた検討を行うことを目的としている。さらに言えば、これまで行われてきた実証実験のほとんどが実装に至っていないという実情にテコ入れする、という目的も含んでいる。

 このアライアンスには現時点で既に世界100都市以上が参画しているといわれており、多くの都市がスマートシティ化に向けて新たな知見を求めていることが、設立会合ではうかがえた。スマートシティの先進事例としてトロント市やバルセロナ市の市政府代表等から取り組み内容と課題が語られたが、共通して語られていた課題が、「データ活用に対する透明性と説明責任の担保」と「データ活用による住民向け提供価値」であった。このような課題提起には共感できる側面がある一方で、中国のスマートシティ開発プロジェクトに現場で携わる私自身の立場からすると、先に挙げた課題はあくまで供給側の視点からの課題であり需要側の視点を欠いているのではないか、と感じる。

 経済消費の拡大に伴い年々廃棄物量が増加している中国では、都市や地域単位で廃棄物の減量化と資源化に向けた取り組みが様々に検討されている。一部の先進地域ではごみ分別のスマート化が進んでおり、例えば、ごみ排出における実名表示やごみの出元を追跡するためのごみ袋へのQRコード貼り付け等が実用化されている。公的機関である地域の政府当局がデータ管理できるよう、排出されたごみと個人をつなぐデータ連携の仕組みを構築しているのである。また、正しく分別した人には少額の報奨金を与え、金銭インセンティブも提供している。

 ただ、日本以上にデータ管理の仕組みづくりが進む中国だが、政府関係者に話を聞くと、次のような話が返ってきた。「廃棄物の減量化と資源化を推進するための住民や企業向けの罰則規定やインセンティブを設け、それを支えるデータ管理技術を導入してきたが、それだけでは我々が目指す美しい街を実現することはできないと考えている。住民や企業に規範意識を醸成させることが重要である」。おそらく、データ管理技術や制度では、人々の行動様式を規定・管理することに限界があると感じているのであろう。監視されていない場所でもポイ捨てをせず、正確に分別し、減量化に資する行動を生活の中で当たり前に選択する、といった住民の意識と行動様式の変革も合わせて進めていくことが、スマートな街づくりには必要である、との結論に至った中国から、気付かされることも多い。

 他国と比べ日本は、率先して、住民の意識と行動様式を変革し、民度の高い社会づくりに成功してきた。このノウハウは、スマートシティ等の街づくりにおいて今後もっと価値を見直されていくはずだ。この価値を世界に広げていくためにも、私は早期の成功事例づくりに向けて、貢献を続けていきたい。

(※)グローバル・スマートシティ・アライアンスとは、各都市がベストプラクティスや課題を共有しながら、政府や住民、民間企業とともにスマートシティの実現を目指すグローバルな都市間連携の新しい枠組み



※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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