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ビューポイント No.2019-020

進展が見込めない米中通商協議~行き詰まる米国の対中政策~

2019年08月22日 牧田健


8月1日のトランプ大統領による「第4弾」対中追加関税発動の意向表明をきっかけに、米中対立は再び泥沼化している。しかし、13 日には、一部製品の関税引き上げの先送りを余儀なくされるなど、今回の米国の対中攻勢は敗北が濃厚になっている。中国が長期戦を覚悟で安易な妥協は行わないという姿勢を明確にしている以上、これまでのような「関税」を武器に相手国からの譲歩を引き出すというトランプ大統領の手法では今後事態が進展しない可能性大。

そもそも、他国での代替が困難な対象品目が多くなるなか、「関税引き上げ」による効果は乏しく、むしろ副作用が大きくなっている。人民元安についても、中国サイドはむしろ人民元安の加速を警戒しており、米国が通貨切り下げを牽制するのはナンセンスといえる。「為替操作国」への指定も、米国自らその判定ルールを破棄し、むしろ市場のボラティリティを高めているほか、対中国に限れば単なる象徴としての意味合いでしかない。

来年11 月に大統領選挙を控え、「関税」以外で即座に行動を迫るような「武器」を突き付けないと中国サイドの歩み寄りを促すのは困難であり、来秋の大統領選挙まで米中協議を「棚上げ」するしかないのが実情。その場合、通商面での成果をアピールできなくなるなか、トランプ大統領は、FRBへの大幅な利下げ要請やドル安圧力を一段と強めてくることは必至。

一方で、対中協議のこう着打開に向け、米国は中国に対し、さまざまな「揺さぶり」をかけてくる公算。ひとつが香港問題。デモが長期化・過激化していけば、国際的な孤立を回避すべく、対米通商協議で柔軟路線に転換する可能性はある。もう一つが、過剰投資・過剰融資を抱え、脆弱な中国の金融システム。ドル建て債務を抱える大手国有銀行がドルのファイナンスに窮する事態となれば、IMFやFRBからのドル資金供給に頼らざるを得なくなる可能性。これとは別に、既存の「国防権限法」等を駆使し、ファーウェイ包囲網により多くの国を巻き込みながら締め付けを強めていく公算も大。これにより、景気対策への依存が強まり生産性が低下することで、中国の中長期的な成長力が削がれる可能性。いずれにせよ中国経済、世界経済が大きく悪化する事態が生じないと、こう着打開は期待できず。

一方、大統領選挙で苦戦を強いられれば、中国サイドからの農産物の大量購入という甘い餌により、トランプ大統領が独断専行でファーウェイ包囲網の解除等を行い、早期決着を図るという可能性もゼロではない。その場合、短期的には、世界経済・市場にも大きな混乱が生じることなく、米中対立も当面の小康を得る可能性がある一方、通信分野での中国の覇権獲得が濃厚となり、長期的には経済秩序に大きな地殻変動が生じることで、とりわけわが国に大きな影響が及ぶ恐れがある。

いずれにせよ、米中経済双方への依存度がますます大きくなっているわが国経済は、EU等と連携し、第3極としての存在感を高め、米中の対立が先鋭化していかないよう働きかけを強めていく必要がある。同時に、不測の事態が生じたとしても、安定成長を維持できる経済の底力を身に着けることが不可欠。対外的には、ASEANとの経済的なつながりをより強固にしていく必要。一方、国内においては、社会保障制度の持続可能性確保、生産性引き上げなどを通じて、国内需要の基盤強化に取り組む必要。

進展が見込めない米中通商協議~行き詰まる米国の対中政策~(PDF:688KB)
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