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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.19,No.74

グローバル・バリュー・チェーンからみたわが国製造業の現在地―「貿易立国」と「投資立国」を兼ね備えた新しい国のかたち

2019年08月21日 三浦有史


貿易収支の赤字転換や世界輸出に占める割合の低下を根拠に、わが国経済の衰退を指摘する見方がある。しかし、貿易赤字はあくまでエネルギー価格の上昇を受けたものであり、「輸出で稼ぐ」という収益モデルが行き詰まったわけではない。世界輸出に占める割合が低下したのは新興国の台頭によるもので、先進国共通の現象である。先進国は脱工業化が進み、輸出においてもサービス業の寄与が高まる傾向にあることから、財の輸出が増えにくい構造となっている。

わが国は世界屈指の「製造業投資大国」であり、海外生産比率も上昇の一途にある。対外直接投資によって海外に設立された生産拠点が生み出す付加価値や輸出は、出資者への配当や特許使用料の支払、というかたちでわが国経済の底上げに貢献することから、世界貿易および経済における日本の立ち位置は海外の生産拠点を視野に入れて考える必要がある。

わが国製造業が対外直接投資によって生産拠点を設けてきた地域は専らアジアである。経済協力開発機構(OECD)の付加価値貿易統計(TiVA)をみると、わが国のアジア向け輸出にはアジア以外の地域を最終需要地とする付加価値が多く含まれており、アジアの生産拠点はアメリカ、欧州、さらには日本市場向け輸出拠点として機能している。

中国は、自らがアジアのグローバル・バリュー・チェーン(GVC)における域外向けの輸出拠点として活用される立場よりも、アジアの他の国・地域を域外向け輸出拠点として利用する立場を強めている。しかし、中国の輸出に占める外資企業の割合はほとんど低下していないことから、それを推進しているのは中国地場企業ではなく、中国に進出した外資企業とみるのが妥当である。

国際収支発展段階説に従えば、わが国は未成熟債権国から成熟債権国に移行している。成熟債権国としてのわが国を支えるのはアジアである。アジアの直接投資の収益率は北米や欧州より高く、規模も大きい。また、アジアは旅行収支や知的財産権使用料の受取増加を支えており、サービス収支の赤字幅縮小に寄与している。

わが国はアジアへの対外直接投資を通じて「貿易立国」から「投資立国」へと移行しつつある。しかし、現地法人を含むわが国企業全体としての輸出が増えているのであれば、わが国は依然として「貿易立国」といえる。「投資立国」は「貿易立国」の次の段階に来るものではなく、アジアのGVCを舞台とする新しいかたちの「貿易立国」の上に成り立っているといえる。

グローバル・バリュー・チェーンからみたわが国製造業の現在地―「貿易立国」と「投資立国」を兼ね備えた新しい国のかたち(PDF:1487KB)
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