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日本の交通課題と自動運転技術による地方創生

2018年06月12日 石川智優


 「移動」という行為は経済活動に大きく影響を及ぼす。人の移動を効率化して余った時間を生産に投入するとして、どの程度の労働力が生み出せるかが計算できる。そのように考えるとわかりやすい。人の移動を効率化することでより多くの追加的な生産活動を生み出せる。人の時間あたりの行動範囲を広げることは、国民総生産の増大につながるということである。国民総生産が所得につながるとすれば、人の1日の行動範囲の拡大に比例して、国民総生産と国民所得は増大するのである。

 戦後、日本のインフラは急速に整備されてきた。特に道路インフラについては、地形を問わず毛細血管のように道路やトンネルが整備され、どの地域に住んでいても足元で不自由することはなくなったといえる。同時に、他の先進国に比べても類を見ないスピードでモータリゼーションが進み、あわせて住宅地の整備により都市部への人口集中も進んだ。

 それが現在、高齢化や過疎化が進むことで、インフラは整備されているにもかかわらず「移動」が困難になってきている地域が増加しつつある。日本国内においてどのように「移動」が困難になってきているかあらためて整理してみたい。まず、移動の類型は筆者の観点で整理すると大きく6パターンがある。

(1)地域内近距離移動(例:住宅街内の移動など。主に徒歩で移動)
(2)地域内長距離移動(例:市内の移動など。主にバスや自家用車で移動)
(3)地方内近距離移動(例:都道府県内における都市間の移動など。主に電車やバス、自家用車で移動)
(4)地方内長距離移動(例:1~2の都道府県をまたぐ移動など。主に電車やバスで移動)
(5)国内近距離(地方間)移動(例:都道府県を複数またぐ移動など。主に新幹線で移動)
(6)国内遠距離(地方間)移動(例:都道府県を複数またぎ、かつ陸上交通では1日での往復が難しい移動など。主に飛行機で移動)

 これらのうち、現在課題となっているのは、比較的狭い範囲の(1)~(3)の移動であろう。

 (1)は、山を切り崩して造成した住宅街などでは勾配が激しく高齢者には徒歩での移動が困難になりつつあること、また、高齢化による免許返納により自家用車での移動も今後難しくなってくることなどが挙げられる。

 (2)および(3)は、高齢化による免許返納に加え、交通事業者の運転手不足による公共交通の運行頻度の減少、それに起因する移動手段の減少が挙げられる。

 人は、(1)~(3)の移動を通じてハブとなる施設に向かい、さらに(4)~(6)の移動を行う。つまり、(1)~(3)の移動手段を確保しなければ、(4)~(6)の移動につながらない。人の交流が活発になった現代においては、(1)~(3)の移動が不便である地域から人は流出し、利便性を求めてより便利な都市部に流入する。それが結果として都市部の人口集中につながる。移動が便利な地域には企業や商業施設が集まり、さらにその周辺に居住地が集まる。

 地方創生を実現するためには「移動の不便さ」を解消することが重要であり、現在解決策として期待されるのが自動運転技術による移動手段の確保である。

 先日内閣官房IT総合戦略室から発表された「自動運転に係る制度整備大綱」においても、自動運転が目指す目的としては大きく以下の4つを掲げており、(ウ)に「地方再生」が挙げられている。

(ア)交通事故の削減や渋滞緩和等による、より安全かつ円滑な道路交通社会の実現
(イ)きめ細かな移動サービスを提供する、新しいモビリティサービス産業を創出
(ウ)自動運転車による日本の地方再生
(エ)世界的な自動運転車の開発競争に勝ち、日本の自動車産業が、引き続き世界一を維持

 筆者自身も、神戸市で実施したラストマイル自動運転移動サービス実証実験(参考:「ラストマイル自動運転移動サービス」の実証実験の実施について)などを通して、地域内移動や地方内の移動が不便になりつつあること、そしてそれを補う移動サービスを提供することで人の移動が活性化することを目の当たりにしてきた。

 今後、自動運転技術を活用した新たな移動サービスが地方における生活の足となり、地方の活性化につながること、ひいては日本の経済の発展につながることを期待したい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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