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SDGs待ったなし、経団連 企業行動憲章の改訂

2017年11月28日 橋爪麻紀子


 2017年11月8日、経団連は新たな企業行動憲章を発表した。企業行動憲章とは、会員企業約1,350社が順守し、実践すべき事項が記載されているものだ。前回の改訂は2010年のISO26000(企業の社会的責任に関する国際規格)の制定に応じたものであったことから、7年ぶりの改訂となる。改訂の主なポイントは、企業がIoTやAIなどの技術を活用し、経済成長を進めるとともに持続可能な開発目標(SDGs)が定める社会的課題の解決に積極的に取り組むことを促している点だろう。その他、個別テーマとしても「人権の尊重」や「働き方の改革、職場環境の充実」など新たに掲げられている。前者は、グローバル化する企業活動・サプライチェーンにおける労働問題や人権侵害をなくすための取り組みの必要性を言及するものであり、後者は、国内でも近年注目されている従業員の労働環境の改善、企業のダイバーシティ促進、健康経営の推進などに関する記述が目立つものであった。

 政府が2016年12月に日本の「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」と「具体的施策」を発表していから1年が経過しようしている。その後、2017年10月には外務省がSDGs達成に資する優れた取り組みを行う企業・団体に対するアワードを制定するなど、これまでも個別企業・団体によるSDGsの取り組みは国内でも着実に増加しつつある。このような中、今回の企業行動憲章の改訂は、国内経済を支える経済団体による号令として、SDGsがさらに企業活動の重要な一要素として主流化していく大きな一歩と言えるのではないだろうか。もちろん、改訂の過程においては、企業の最終的な目的はSDGsの達成ではない、という意見もあったはずである。それでもあえて経団連が、企業行動憲章にSDGsの要素を盛り込んだ理由は、世界の潮流からもそれが企業にとってもはや無視できないものになりつつある、と判断したからだろう。国際的な流れを見ても、既にSDGsに事業を通じた貢献をしている企業が評価、選定される株価指数の開発や、そうした株価指数に連動した債券商品の開発や投資家の出現がこの数年で急速に進んでいる。つまり、企業側がそれを望まなくても、企業の評価のものさしのひとつとして、SDGsという切り口が存在感を高めているのである。

 現在、企業のサステナビリティ報告の普及・促進を行うGRI(Global Reporting Initiative)と国連グローバルコンパクトが主導し、企業のSDGsへの取り組みに関する情報開示手法やベストプラクティス集を策定している。これには、国連グローバルコンパクトに署名済みの有志企業グループ(Corporate Action Group)も参画し、2018年末を目処に企業のSDGsの取り組みに関する情報開示手法を検討しているのである。このような企業の情報開示の標準化が進む中、グローバルに活躍する企業であればあるほど、SDGsへの取り組みを対外的に情報発信する場が増えることが想定される。

 これまで、SDGsは目標が多様すぎる、範囲が広すぎて取り組みにくい、などさまざまな企業の反応があった。しかし、それは裏を返せば、SDGsが企業へ求める取り組みとは、事業活動における多様なステークホルダーへ配慮すべきだということでもある。企業は、投資家や株主に加え、競合、サプライヤー、従業員、消費者、地球環境、地域社会とあらゆるステークホルダーへの配慮を行い、それらを事業活動へと統合していかなければ、国際的な環境においては競争力を失い、ステークホルダーから評価されなくなってしまう。そうなる前に、世界の置かれている社会・環境を理解し、自社の経営に反映させなくてはならない。今回の企業行動憲章の改訂は、そういったメッセージ性を強く感じるものであった。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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