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農業ロボットIoTの新時代を目指して

2017年11月14日 木通秀樹


 昨年10月に「IoTが拓く次世代農業アグリカルチャー4.0」を刊行して1年が経過した。この間、IoT市場は大きく変わってきた。昨年までは、IoTというと実体がないバズワード(buzzword: 人の関心を惹くだけの、もっともらしい説明が付けられた専門用語)と言われることも多かったが、例えば、各種設備の診断やオペレーション改善といった経営改善の手法として多数の成功事例が登場し、有効性が確信されるようになってきた。その本質は、製品単体で機能を発揮するのではなく、ITで連動したサービスによって付加価値を拡大し続けるという考え方に裏打ちされたものだ。モノを売るのではなく、モノを介在して機能や価値、成果を売ると言ってよい。農業分野においても、農業ロボットというと、従来はいわゆる収穫等の高度な作業を代替する高価なロボットを指すことが多かった。しかし、この数カ月の間に変化が現れ、拙著が提案したようにIoTシステム構築の一要素となる農業ロボットへの期待が高まってきた。
 拙著では、農業生産者に寄り添い、ともに成長する農業ロボット「DONKEY」を提案した。このロボットIoTシステムの特長は主に3つある。

 一つめは、ロボットの価格を下げ、農業生産者の経済的負担を軽減することだ。普及しなければIoTシステムとしての真価を発揮し、次世代といえる農業市場を開拓することはできない。月々の使用料を数千円程度にすることで、使ってみようと思っていただけるようにした。今や、4Kの画像センサーでも数千円で入手できる時代である。高価だったセンサーが安くなることで大幅なコストダウンが可能になった。現在、農業のロボット化が積極的に進められているが、大型設備は農業生産者にとっての負担も大きく、設備の更新時期でなければなかなか導入が進み難い。このため、普及には時間がかかる。迅速に普及させるためには、農業生産者の経済的負担の軽減は必須だ。

 二つめは、対象作業の幅を徐々に広げ、農業生産者の作業を広範に代替することで、生産者一人当たりの生産性を高めることだ。一般にロボット開発は作業内容を特定して、単機能化することでコストを下げる。しかし、単機能だけでは工場での使用や特殊作業には適するが、人とともに働き、変化するニーズに対応できるロボットとしては能力が足りない。また、農業では小規模事業者が多く、単機能のロボットであっても用途ごとに何台も購入する経済的な余裕はない。これに対し、本システムは、初期には価格を抑えるために最低限の機能しか装備しないが、徐々に新機能を追加していくことで、農業生産者とともに成長することを可能とする。機能追加は、新たな機能を持つアタッチメントを追加することで実現させるが、従来のアタッチメントとの協調動作をも可能とするAIロボットプラットフォームを構築しておくことが特長だ。これにより、スマートフォンのアプリケーションのように、ロボットベンチャーなどの参入を誘導することもできよう。

 三つめは、データ利用の幅を広げ、農業生産者のみならず、市場関係者の付加価値を高めることだ。一般に農業IoTは、環境情報を細かくセンシングして栽培に役立てたり、温度などの栽培環境を制御したりするものとして捉えられている。これは、生産環境を安定化することが主眼であり、作物の品質向上や収量改善を目的としたものではない。こうした方法からは、水分を絞って甘みを増す栽培方法などは導かれない。本システムは、農業生産者に寄り添って作業を助けるとともに、作業履歴をモニタリングして、環境情報履歴、作物の品質、収量の因果関係情報を併せてデータベース化する。こうすることで、さまざまな作業者の履歴を統合してベストプラクティスを抽出し、作物の品質向上、収量の改善を実現することができる。この際、農業生産者の知的財産への配慮は欠かせない。さらに、農業生産者の信頼性評価 を行うことで販売の付加価値を向上し、農薬や肥料などの使い方の把握や予測を行うことで資材販売の効率向上を実現する。

 以上の要件を具備することで、農業分野におけるロボットIoTはこれまでの高価な農業ロボットに取って代わり、データ活用を前提として、農業の経営改善を実現することができる。こうした農業ロボットDONKEYの開発は、現在多数の企業の協力のもとに、今まさに始められようとしているところである。人に寄り添い、成長するロボットの実現は、人とロボットの関係を変え、日本農業の産業競争力を強化するとともに、他の産業への波及効果をも有し、産業全体の基盤を強くすると期待されている。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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