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日本総研ニュースレター 2017年6月号

人のつながりの再生・活用が 地方創生を加速させる

2017年06月01日 山田敦弘


小さな自治体が立ち向かう地方創生の課題
 地方では産業の衰退が続き、上向く気配さえ見えない。基幹産業であった1次産業では人材不足や高齢化による耕作放棄地の拡大、2次産業では工場の効率化追求による雇用の場の喪失、さらに3次産業では商店街の衰退など、多種多様かつ解決が難しい課題が山積している。
 地方の小さな自治体は、これらの解決に取り組む中心的プレイヤーとなるべき立場にある。ところが、実際にはその期待に応え切れていない自治体も少なくない。例えば、近年の田園回帰の潮流で増えてきた「この町に移住して農業をしたい」という希望者が現れても、「移住も農業も農地も別組織で管轄していますので、それぞれに問い合わせをしてください」と回答してしまうケースである。縦割りや標準的な事務処理以外には手が回りにくいなどの事情も分かるが、これでは、移住希望者の呼び込みは絶対にできない。

人のつながりの活用で課題を解決
 しかし、地方の小さな自治体の潜在能力は高く、少し意識を変えるだけでその能力を発揮し、改革が進むことも多い。例えば、筆者が政策推進課に籍を置いたことがある大分県杵築市では、以下のような事例が存在する。
(1)児童養護施設出身者の就労支援
 児童養護施設の子どもたちの大半は高校卒業時に就職をするが、離職率は一般の高卒就職者に比べ非常に高い。社会的な後ろ盾がない施設卒園者が、就業と自立生活を一度に始めるのは難しいからである。彼らに必要なのは「親代わり」として、それらの面倒を見てくれる存在である。
 一方、耕作放棄地が拡大する地方では、若い労働力の確保が必須の課題となっている。そこで、こうした地方の農業に施設卒業者が移住し就職できれば、お互いの課題が解決できるはずと、市とNPOおおいた子ども支援ネット、県内9つの児童養護施設が連携して取り組みを始めた。開始当初、関係者が最も心配をしたのが、「趣旨を理解し、受け入れてくれる農業者の確保」であった。しかし、市の農林課の担当者に相談し、協力者を探してもらったところ、1時間もかからず3組も確保できた。この職員は普段から個々の農業者と膝を交えて話せる関係を保っており、協力してくれそうな人の見当が最初からついたのだという。実は地方の農家には、自分の孫かのように、丁寧に農業から生活まで指導し相談に乗ろうとしてくれる高齢者等が数多く存在していたのである。
(2)海外から中山間の過疎の旧村への移住
 市の地域おこし協力隊募集に問い合わせをしていた海外在住の日本人が最終的に応募を取りやめた際、それを聞きつけた職員が「英語を話せる人を探している職場がある」と本人に連絡し、そこへの就職が決まった。さらに住居や子どもの学校もその職員からの情報提供でスムーズに進み、わずか2カ月あまりの早業で、コンビニもスーパーも不動産屋もない過疎の中山間地に海外からの移住が実現した。

小さな自治体の特徴を活かすポイント
 上記の事例が成立した要因は、主に2つある。
 1つは、地域内に人的ネットワークがしっかりと形成されていることである。都会では考えられないが、役所の職員は、ほとんどの地域住民を知っている。「あの空き家の持ち主は誰?」や「あの取り組みをやっているのは誰?」などはもちろん、「○○さんの叔父さんの長男は東京に出ていたが5年ほど前に戻り、家業を一緒にしているらしい」という具合に情報が具体的である。そのため、最適な住民をピンポイントで探し出し、そのまま取り組みが動き出すことも少なくない。
 もう一つは、初期段階で話を受けた職員がすばやく横に連携したことである。担当外の案件でも「自分だけでは解決できないが、話がつながれば相談者当人や地域にとってきっと素敵なことになる」という想像力を最大限に働かせ、適切な人物に橋渡しする職員の役割は非常に大きい。
 昭和・平成の市町村合併を経て規模が大きくなり、業務のマニュアル化が進むなかで弱まりつつあったこれらの機能の再生と活用こそが、これからの地域の活性化の核となる。それには直面する課題と取り組み状況全体を全職員で共有すること、ベストプラクティスを評価し事例化すること、改善しようとした職員の失敗は減点しないこと、そして何よりも地域再生に全面的に携われる素晴らしい仕事であることを職員に再認識させることなど職員環境を整え、人のつながりの再生・活用ができる職員を増やしていくことが重要である。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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