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日本総研ニュースレター 2016年11月号

民間ビッグデータを活用した道路インフラマネージメント

2016年11月01日 劉磊


耐用年数を越えていく道路インフラに長寿化対策
 道路や橋梁、トンネルなど日本の道路インフラの大部分は高度成長期に整備されており、その多くは一般的な耐用年数とされる50年を既に越えている。国土交通省によれば、竣工後50年を越える道路橋は2021年度に約28%、2031年度には53%程度に達すると推定される。
 2012年の笹子トンネルの事故が契機となり、国交省は2013年を「社会資本メンテナンス元年」を位置づけ、全国で道路インフラ総点検を実施した。また、緊急点検と並行して、道路インフラの長寿化計画も議論された。2014年には道路法が一部改正され、構造物(橋梁、トンネル)に関する点検基準を定め、全国で統一の尺度を用いて定期的な点検、記録を行うことが方向づけられた。

先進的モニタリング技術導入にはコストの壁
 現在、道路インフラに取り付けた様々なセンサーから収集したデータを解析することで日々の状態をモニタリングし、劣化の予兆を検知するシステムの研究が進められている。既に幹線道路では、橋梁マネジメントシステム(BMS)や舗装マネジメントシステム(PMS)という形で、実証を含めた部分的導入が始められており、有用性が証明されつつある。
 その中で、道路管理者を悩ますのは導入コストの高さである。国からモニタリングや修繕の補助を受けられる幹線道路(高速自動車道、直轄国道など)はともかく、国からの補助対象ではない生活道路(県道、市道以下)では、管轄する地方自治体が予算を自前で確保できず、こうした先進的なシステムの導入は見送られがちとなっている。BMSやPMSはもちろん、例えば路面性状を精密に計測する特殊車両にしても、地方自治体が導入するには高価過ぎる。
 先進的なシステムが高価である以上、このままでは幹線道路と生活道路の格差は開く一方とならざるを得ない。また、予算不足を中心に、人員不足や技術不足に苦しむ地方自治体は数多く、生活道路の維持管理水準は管理者によるばらつきも大きい。実際に、定期点検さえ満足に実施されていない道路も少なくない。そのような道路では、地域住民からの通報を受けてはじめてポッドホールや亀裂を認識し、対症療法的に修理しているのが実情である。

運行記録をビッグデータ化し、路面性状を伝えるデータに
 モニタリングのコストが課題となるなか、比較的低コストで道路の維持管理を続ける技術として着目されるのが、民間事業者が保有する運行記録である。現在、民間のトラック(最大積載量4~5トン)には運行管理の視点から、速度・時間・距離を計測し、車載機器に記録することが法律で定められている。さらに、近年の車種では燃費改善を目的に、瞬間加速度や燃費等も併せて計測・記録し、運転特性を詳細に把握するようになっている。これらのデータはGPS装置による位置データと連動して保存されることが多い。
 この「運行記録」を応用し、路面性状(粗さ)や架橋等のたわみを計測する研究が2010年頃から本格化している。横加速度や縦加速度なども組み合わせて計測した路面性状のデータを民間事業者同士が広く連携してビッグデータ化し、精度の高い計測を実現することが期待されている。
 路面性状の把握に必要なデータの量(全国道路のカバー率)や質(車両の状態や搭載センサーの違いによる差異、データと既存の道路評価基準の相関)などに関してはまだ研究途上であるが、道路インフラそのものに手を加えずに済み、日々道路を走行している車両から自動的に取得できるデータの活用はコストと運用面で魅力的な選択肢である。また、日々更新されるデータからは、経時的な道路の状況変化を把握できる。大病してから回復するまでのコストは、未病を防ぐためのコストよりも高くつく。道路も同様で、定期点検で見つけた重篤な欠陥を補修するよりも、道路の劣化状況を細かく把握していち早く予防的修繕を行う方が、道路インフラマネージメントのトータルコストを削減しやすい。
 民間ビッグデータを活用するモニタリングは、道路管理者にとってはコストが従来の手法よりも格段に安く済み、民間事業者にとっては「民間ビッグデータ市場」という新しいビジネスが生まれる可能性が期待できる。物流事業者やメーカーをはじめとした民間事業者が実際の道路での先行事例といった情報を地方自治体など道路管理者に積極的に提供しながら、導入に向けた取り組みを共に推進していくことが求められる。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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