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学校教育の情報化と「スマートスクール」構想の実現に向けた展望(中編)
教育改善に向けたデータ活用のあり方と国内外の事例

2017年05月15日 佐藤善太


 本稿では、以下の三編に分けて、学校教育の情報化とデータ活用の動向、「スマートスクール」の実現に向けた課題と展望について論じている。
 
(前編)情報化の動向とデータ活用に向けた国の施策
・(中編)教育改善に向けたデータ活用のあり方と国内外の事例
(後編)「スマートスクール」に関わる課題と今後の展望

 前編では、学校教育の情報化の状況と、学校での教育改善に向けたデータ活用の推進に国が着手している現状を解説した。中編では、データ活用のあり方と事例について概観していくが、その前に、そもそも学校での学習・指導などにおいて蓄積されていくデータにはどのようなものがあるか、確認しておきたい。

学校で蓄積される多様なデータ
 学校で蓄積されるデータは、学習・授業の場面で蓄積されるデータ(学習データ)と、教職員の校務で蓄積されるデータ(校務データ)に大きく分けられる。
 学習データとしては、まず児童生徒の様々な学習行動の履歴や、情報端末・システムの操作ログが挙げられる。また、授業などの過程で作成された途中作成物や、最終成果物(作品・レポートなど)、テスト・アンケート結果、児童生徒が立てた目標とそれに対する評価も、学びの過程と結果を示す重要なデータといえる。一方、校務データとしては、児童生徒の属性情報、時間割情報、出欠情報、成績・通知表情報、指導要録、保健関係情報などが挙げられる。
 このように学校で蓄積されるデータは多岐にわたるが、先行事例においては教育改善に向けてどのようなかたちでデータを収集・分析・活用しているだろうか。以下では、データ活用の方向性を「学習・指導プロセスの可視化」、「個に応じた学習・指導のカスタマイズ」、「学校・自治体・国レベルの教育改善」に分け、それぞれに関連する国内外の事例を紹介する。

先行事例――学習・指導プロセスの可視化
 ICTの活用は、従来は見えにくかった学習の進捗状況や児童生徒の行動を、データとともに把握して、学びと指導の改善につなげることを可能にする。
 学習の進捗状況に関するデータを可視化している先進的な事例として、Summit Public Schools(米国で11の中学・高校を運営する組織)の取り組みがある。Summit Public Schoolsは、Facebook社と連携し、ビル・ゲイツ夫妻の運営するゲイツ財団などから寄付を受けて、教育改善と独自のシステムPersonalized Learning Plan(PLP)の開発を行っている。PLPは生徒の目標や学習スケジュール・進捗状況を管理できるプラットフォームで、様々なコンテンツでの学習の記録を収集して、個人ごとにどの教科でどのような内容に取り組んでいて、どこに遅れが見られるかをダッシュボードによりリアルタイムに可視化する。生徒自身や教員は、この情報を学習や指導の改善に役立てている。Summit Public SchoolsではPLPを米国内の他の公立学校にも無償で公開し、普及に努めている。日本でも、スタディサプリやClassiなどの学習支援サービスにおいて、一人ひとりの学習状況や理解度を個人カルテとして可視化する機能が提供されるようになっている。
 また、児童生徒の行動のデータに基づく可視化の例としては、ベネッセと岐阜市の中学校による共同研究(2016年7月~2017年3月実施)が挙げられる。共同研究ではタブレットを活用した問題演習を宿題として実施し、週単位の学習量や正誤の記録を生徒や教員にフィードバックした。生徒は自分の学習状況を確認して次の目標設定に役立てることができ、教員は普段知ることが難しい、生徒の学習行動の様子を把握して、適切なフォロー・声かけにつなげるきっかけとなったという。シンプルなだけに他の自治体・学校でも取り入れやすいデータ活用の実践例といえるだろう。

先行事例――個に応じた学習・指導のカスタマイズ
 児童生徒の学びや行動に関するデータを、個々の児童生徒に応じた学び(アダプティブ・ラーニング)や、一人ひとりに合った指導の実践に生かすことができるのも、ICT活用の大きなメリットである。
 例えば、全ての児童生徒に同じ問題を提示するのではなく、問題への回答状況や理解度に応じて個に応じた問題を提示するアダプティブ・ラーニング・アプリは、米国をはじめ海外で広く活用されるようになっている。個々の事業者により開発されているアプリも多いが、教育出版世界大手のピアソンやマクミラン、ケンブリッジ大学出版などでは、既存のコンテンツを活用してアダプティブ・ラーニングを実現する技術を持つ米国Knewton社と提携してアプリを開発している。Knewton社はZ会、学研、Classi(ベネッセホールディングスとソフトバンクの合弁会社)といった国内大手事業者とも提携している。日本でも既にアダプティブ・ラーニングの要素を取り入れた学習アプリは多く見られるが、今後さらにこうしたアプリの開発・活用が進むと見込まれる。
 設問の最適化だけでなく、個の学習方法に応じた最適化にまで取り組む例もある。米国の非営利団体New Classroomsでは、38の中学校に独自の数学学習プログラム(Teach to One: Math)を提供している。このプログラムでは、生徒一人ひとりの理解度をアセスメントにより把握した上で、各生徒に合った学習スケジュール(Playlist)を提示する。Playlistに示される学習内容は生徒ごとに異なる。さらに、ある生徒はデジタル教材での個別学習、別の生徒はグループ学習や一斉学習といったように、学習方法まで含めて個に応じて提示している。こうした取り組みの結果、学力向上の成果も報告されている。
 このほか、学習面だけでなく、個に応じた児童生徒の指導・ケアにもデータを活用する例が見られる。米国の場合、属性情報や出欠情報、アセスメント結果や成績、生活指導記録などのデータから、単位取得や卒業が困難な可能性のある児童生徒を検出し、教職員にアラートを出す機能(Early Warning)を持つ校務支援システムや、データ分析サービスが多く提供されている。教職員は、アラート情報を参考としながら、問題が顕在化する前に児童生徒への指導・ケアを行うことが可能となっている。こうした機能・サービスの開発には、大学等の研究機関やデータサイエンティストが関与している例も多い。

先行事例――学校・自治体・国レベルの教育改善
 ここまでに紹介した事例は、主に個々の児童生徒の学習や指導の改善の取り組みであったが、データの活用は、学校・自治体・国といったより大きな単位での「エビデンス・ベースト」の教育改善においても重要となる。
 大阪府箕面市では、2012年度から、小学校から中学校までの各学年で学力、体力、生活状況(クラスの絆や規範意識の状況など)に関する調査を毎年行っている。この調査データを分析して、児童生徒個人や学級・学年単位の学力・体力・生活状況の継時変化、学級崩壊の兆候等を明らかにし、児童生徒への指導や学級・学校運営、自治体単位の教育改善に役立てている。また、教員ごとの指導の成果もレポーティングされており、これを生かして教員のスキルアップや管理職による教員評価、適切な人材配置を行うことが可能となっている。児童生徒の学力等の調査を独自に行う自治体は他にも多くあるが、その結果は必ずしも個人別かつ経年比較可能なかたちで蓄積されていない。箕面市の取り組みは他の自治体にとっても参考になるだろう。
 ただし、海外ではより多様なデータを分析・活用し、教育改善につなげる取り組みが広がっている。米国では、校務支援システムに蓄積された児童生徒の属性情報(年齢・性別・社会経済的背景など)、履修・出欠、アセスメントデータ、成績や、様々な学習アプリ上での学びの記録を収集し、データウェアハウスで多角的に分析可能とするサービスを提供する事業者が見られる(例:Schoolzilla)。また、校務支援システム自体が備えるデータ分析機能も充実しており、米国や英国の場合、主要な校務支援システム(PowerSchool、Capita SIMSなど)が、児童生徒の属性情報、履修・出欠、アセスメントデータ、成績などを一体的に蓄積し、個人・学校・学区といった単位で分析する機能を持つ。国がこうした機能を持つ校務支援システムを開発し、学校に提供している例もある(シンガポール・School Cockpit System)。
 さらに、全国規模で長期にわたり児童生徒に関するデータを収集し、統合的に分析可能とするシステムを運用している例もある。イングランドでは、国内全ての児童生徒の属性情報、出欠やナショナルテスト成績などのデータを継続的に収集・蓄積する巨大なデータベース(National Pupil Database)が運用されている。各学校が校務支援システム上で国から付与される児童生徒の個人IDとその他の情報を管理し、専用システムを介して国のデータベースに集約される仕組みとなっている。このデータは国の教育政策の検証・立案や、学校における自己評価・改善に活用され、学校監査におけるエビデンスとしても用いられる。学校向けにはデータ分析用のシステム(RAISEonline)も別途提供されている。加えて、データを匿名化処理した上で民間事業者や研究機関にも公開し、オープンデータとしての活用を促す取り組みも行われている。

 上記に紹介した事例は数あるデータ活用の取り組みのほんの一部にすぎないが、学校現場においてデータが個々の児童生徒の学習改善、教員の指導やケアの充実といったミクロな次元から、学校・教育委員会・国単位での政策立案・検証というマクロな次元まで、幅広く貢献し得ることは確認できただろう。
 しかし、日本の状況を見ると、先駆的な取り組みが広がりつつあるものの、米国をはじめとする他の先進各国に比べるとデータ活用に遅れをとっている。後編では、データ活用を進める上で対応すべき課題と、今後の展望について論じる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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