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自社日中間での中国医療機器/消耗材市場に対する認識ギャップの有無を計る3つの指標

2016年11月17日 川崎真規


はじめに

 中国医療機器/消耗材市場の市場規模拡大に伴い、日本企業の在中医療機器/消耗材事業にはこれまで以上の業績拡大の期待がかかっている。一方、ここ2~3年は、日本本社と中国現地法人間で、中国医療市場に対する認識の違いが広がっているというのが筆者の感触である。
 そこで、本稿では、中国医療機器/消耗材市場に関する日中間の認識ギャップに焦点をあてて考察する。中国現地法人と在中医療機器/消耗材事業の販売面での取り組みの方向性が合いにくくなったと感じる日本本社の経営者、日本本社に販売施策が理解されなくなりつつあると感じる中国現地法人の経営者に対し、中国医療機器/消耗材事業に関して検証するべき3つの指標を提言したい。

指標① 各国医療市場の「医療技術の普及度」の認識ギャップの有無

 中国医療機器/消耗材市場の市場規模は、日本の市場規模とほぼ同等となっている。この点は日中自社法人間内での認識の相違は少ないと思われる。ただし、この日中の市場規模がほぼ同等ということから、日中の「医療技術の普及度」も同等であると見なしてしまっていないかについては検証が必要である。
 中国医療機器/消耗材市場の規模が日本とほぼ同等であっても、「医療技術の普及度」に差がある場合は、在中事業に日本と同等の売上高を期待することが適さない場合もある。また、医療技術の普及度が低い場合、自社製品の販売に加えて、より手技自体の普及に関連した活動に注力すべき場合もある。
 本稿では、市場規模として国別年間医療支出額を用い、「医療技術の普及度」に関しては「人口10万人当たり年間手術数」を使用する。
 そこで、まずは、市場規模が日中でほぼ同等であるという点について示す。以下図1の縦軸は年間医療支出額であり、日本と中国はほぼ同等である。また、各国の規模感がより直観的に把握しやすい指標として、人口を参考までに横軸に記載した。


図1:アジア国別年間医療支出と人口


※NZ=ニュージーランド、SGP=シンガポール、MLS=マレーシア

 次に、以下図2において、同じく縦軸を見ていただきたい。縦軸の「人口10万人当たり手術件数」を見ると、中国の位置が右下になっている。図1で日中の市場規模はほぼ同等であったが、「医療の普及度」は日中間で違いがあることが分かる。


図2:アジア国別人口10万人当たり手術件数と人口


※NZ=ニュージーランド、SGP=シンガポール、MLS=マレーシア

 また、「人口10万人当たり手術件数」に関する全調査対象国である202カ国における日中の位置づけを以下図3に記載した。日本は年間14,833件(11位)であるが、中国は2,910件(127位)と日本の5分の1程度である。世界的に見ても、「人口10万人当たり手術件数」は、日本が多く、中国は少ない。


図3:国別人口10万人当たり手術件数



 つまり、日本と中国の医療機器/消耗材市場規模は同等であっても、「医療技術の普及度」が異なる。自社製品の特性に応じて「医療技術の普及度」を計る指標が自社日中間で共通して設定されているか検証するべきである。

指標② 中国「省・直轄市単位」の評価/分類に関する認識ギャップの有無

 2点目としては、中国医療機器/消耗材事業の販売課題において、自社日中間で、中国の省・直轄市(北京市・天津市・上海市・重慶市)単位での議論がなされず、中国というひとくくりでとらえ、中国市場の実態と乖離した議論がなされていないか検証して欲しい(ここでも、引き続き「人口10万人当たり手術件数」を「医療技術の普及度」を計る指標して考察しているが、2014年のデータとなる)。
 まずは、中国の省・直轄市単位の「医療技術の普及度」に違いがあることを示したい。以下図4の縦軸を見ると、人口10万人当たり年間手術数が年間5,000件以下のところもあれば、上海市・北京市のように年間5,000件を超えるところもある。
 また、図4の横軸には各省・直轄市の人口を記載しており、ここから、各省・直轄市の人口10万人当たり手術件数が変化した際に、各省・直轄市全体の総年間手術件数の振れ幅の大きさを見るべく記載した。例えば、縦軸を見ると北京市と広東省はほぼ同じだが、人口10万人当たり手術件数が変化した場合、当該地区の総年間手術件数の振れ幅は広東省の方が大きいと言える。


図4:中国省・直轄市人口10万人当たり手術件数と人口



 ただし、自社の日中間で、中国の各省・直轄市単位で課題を検討するのはいささか数が多い。そこで、例えば、省・直轄市単位の「医療技術の普及度」と「人口」をもとに、省・直轄市をいくつかのカテゴリに分類し検討するのが現実的と考える。
 図5では、「医療技術の普及度」を3段階に分けるとともに、人口が6千万人以上の省・直轄市を赤太枠で示した。


図5:中国省・直轄市人口10万人当たり手術件数と人口



 上記のように、自社日中法人間で、中国の省・直轄市単位の分類が共通認識化されており、毎年更新/評価がされているか検証するのがよいと考える。

指標③ 日本本社の「中国事業管理の位置づけ(地域/国)」に関する認識ギャップの有無

 3点目としては、日本本社として、アジアの自社医療機器/消耗材事業を管理する上で、中国とそれ以外のアジア各国を、引き続き国という単位で同列に管理するか、米国・欧州のように一つの地域として管理するべきか、自社日中間で検討しておきたい。
 まずは、中国の各省・直轄市が、アジアの1カ国と同等の「医療技術の普及度」と「人口」を持つことを以下に示したい。図4に、2012年のデータではあるが、シンガポール(SGP)、ニュージーランド(NZ)、マレーシア(MLS)、韓国、タイ、ベトナムの情報を青色で示したのが以下図6である。
 図6から、中国の省・直轄市が、アジアのいくつかの国と同等であることが分かる。中国とひとことで言っても、SGPやNZといった国と同等である上海市/北京市といったところもあれば、タイやベトナムといった国と同等である省・直轄市もある。


図6:アジア国別と中国省・直轄市人口10万人当たり手術件数と人口


※NZ=ニュージーランド、SGP=シンガポール、MLS=マレーシア

 また、「在中の医療機器/消耗材事業の販売面での変化対応力を計る3つの指標」(2016年4月13日掲載)で記載した通り、中国は省・直轄市ごとに診療報酬制度などが異なり、この省・直轄市単位で自社が直面している課題が異なる場合がある。したがって、中国医療事業の販売課題を検討する際にはどうしても省・直轄市単位での議論が必要となる。
 そこで、日本本社から見た場合、自社中国医療事業を他国事業と同様に横並びで管理するか、それとも中国リージョンとして管理するかについて、自社の事業戦略や製品特性、人的要因なども踏まえて検討すべきと考える。

以上


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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