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Business & Economic Review 2012年4月号

【特集 医療制度の在り方を考える】
【特別寄稿】医療改革と経済成長

2012年03月23日 キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹・文京学院大学大学院経営学研究科 客員教授 松山幸弘


要約

政府・民主党が公表した「社会保障・税一体改革素案」は、給付削減への踏み込みが不十分であることに加えて、社会保障改革が経済成長につながる具体的メカニズムを示すことができていない。同案が対象にしている社会保障は年金、医療、介護、子育て支援、生活保護など多岐に及ぶが、このうち日本経済全体の成長に結びつく可能性がある分野は医療のみである。
医療を経済成長のエンジンに転換する方法としては、①医療サービス提供の生産性向上、②医薬品・医療機器の対外収支赤字の縮小・黒字化、③日本の医療のパッケージ輸出、の三つが考えられる。
医療制度は、先進諸国間で大きく異なる。しかし、医療サービス提供の生産性向上の方策は、垂直統合という共通のキーワードで論じられている。垂直統合とは、急性期から亜急性期、リハビリ、外来、介護、在宅、終末期に至るまで患者が必要とする医療サービスを継ぎ目なく提供することである。この垂直統合は、機能が異なり経済的利害も対立しがちな医療事業体間の連携で構築することは難しい。そこで、多種多様な医療事業体群が経営統合したIHN(統合ヘルスケアネットワーク)が各国で誕生している。このIHNの基本型を創造したのは日本である。しかし、わが国のIHNは総じて規模が小さく世界ブランドのIHNが登場するに至っていない。そこで、現在バラバラに経営されている国・公立病院を広域医療圏単位で経営統合することにより日本版IHNを創ることを提案したい。
日本の医薬品・医療機器の対外収支赤字は、過去20年間膨らみ続け2010年に1兆4,859億円を記録した。
わが国が医薬品・医療機器分野で国際競争力を失った原因として様々なことが指摘されているが、筆者はメガ非営利医療事業体が一つも存在しないことが大きいと考えている。米国で新しい医薬品・医療機器の実用化プロセスを担い医療イノベーションを加速させているのは、年間収入が数千億円~1兆円のメガ非営利医療事業体である。これは、米国に約600あるIHNの中で大学や企業の研究開発機能と緊密な関係を築き成長、世界ブランドになったものである。わが国でも国立大学から付属病院を切り離し、前述した国・公立病院の広域医療圏単位経営統合に合流させることで、メガ非営利医療事業体構築を目指すべきである。
人口減少により日本の医療市場は2030年頃から縮小し始める。一方、東南アジア諸国の医療市場はこれから急拡大する。であれば、日本の医療そのもの、医学部・病院・医療保険制度をパッケージで東南アジア諸国に輸出することに挑戦すべきである。これは、わが国の医療産業の新規市場開拓になるのみでなく、その進出先国との官・学・民人材交流や貿易拡大につながることから、国家戦略として取り組む価値がある。
わが国の医療改革の欠陥の一つは、「医療の競争は個々の医療施設間ではなく地域間の競争であるべき」という視点を欠いていることである。換言すれば、広域医療圏単位で医療投資を一元管理するガバナンスの仕組みがないのである。しかし、今からでも政策的に日本版IHNを全国各地に創りそのガバナンスを確立すれば、地域社会・経済再生に直結し、日本経済全体の成長に寄与すると期待できる。
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