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Business & Economic Review 2012年2月号

民間資金を活用した被災企業再建支援に関する考察

2012年01月25日 星貴子


要約

  1. 東日本大震災から10カ月以上が経過し、直接被害の少ない地域では事業再開の動きが出てきた一方、太平洋沿岸部や内陸部の揺れの大きかった地域では、企業再建が必ずしも順調に進展していない。このような状況が長引けば、域外に転出する企業や再建そのものを断念する企業のほか、新たな雇用の場を求めて域外に流出する住民も増加するとみられる。そのうえ、産業基盤や雇用基盤の喪失により、被災地の復興が遅れるばかりでなく、地域経済が衰退する可能性も否めない。この背景として、事業の先行きが不透明なことに加え、再建に必要な資金を十分に調達できないことが指摘される。返済能力や信用力が大幅に低下している企業が少なくないことを踏まえると、融資ばかりでなくエクイティ投資など被災企業の実情に即した方法で迅速に再建資金を提供することが重要と考えられる。


  2. 現在、公的部門や民間金融機関が金融支援を実施しているものの、利用できる企業は限定的で、未だ必要な再建資金を確保できない企業が存在する。このような状況下、個人からの資金を積極的に活用するファンドが出現し、これまでいずれの金融支援も利用できなかった、あるいは必要額を調達できなかった被災企業に資金が供給され、小規模ながら事業再開が可能な企業の範囲が拡大している。インターネットを活用しボランティア意識とエシカル思想に訴求して不特定の個人から資金を募集するとともに匿名組合という形態を用いることで、資金の自己調達が難しい被災企業に対して迅速に資金供給しているためである。こうしてみると、同ファンドが用いる資金供給スキームは、従来の官民いずれの金融支援も十分に利用できず、かつ自力での再建が難しい被災企業の事業再開を後押しする有効策の一つといえるのではないだろうか。


  3. しかしながら、こうしたファンドを利用できる企業も限定的にとどまっているのが実情である。被災企業のなかでも当該支援対象となっている企業はリスクが高いうえ、リスクの高低にかかわらずファンドの運営管理や支援対象企業の事業再開支援には一定のコストがかかるために採算が合わないことから、投資家がボランティア意識の高い一部の篤志家にとどまるほか、被災企業の再建支援事業に参画する企業もCSR意識の高い企業に限定される可能性があるためである。したがって、当該資金供給スキームを用いて幅広く被災企業の事業再開を後押しするには、ⅰ) 適切にリスクをコントロールするとともに、ⅱ)ファンドの運営管理や再建支援に要するコスト負担を低減させることが重要と考えられる。


  4. リスクのコントロールについては、匿名組合を用い投資家が特定の被災企業に対して出資するため、当該出資に関する内部でのリスクの分散は困難とみられることから、例えば、第三者が投資家に対する償還を一定割合保証するなど、リスクの顕在化によって生ずる損失を緩和することが効果的なのではないか。コストの削減については、関連する企業や団体が共同で経営支援に特化した専門機関を設立し、当該機関とファンド運営会社が連携することが考えられる。支援業務を専門機関に集中させることで規模の経済性(スケールメリット)による効率化とコストの低減が期待できる。


  5. もっとも、投資家や民間企業の自発的な参画を更に促進させるには、上述したような資金供給スキームの仕組みを工夫するばかりでなく、税制優遇措置や補助金制度など、投資家や民間企業に対するインセンティブを付与することも必要と思われる。民間主体の支援システムに公的資金が発動されることに対しては異論も予想されるものの、当該支援システムの活用によって企業再建が促進され、さらには地域経済の活性化が招来されるのであれば、公的部門に求められる公共性、外部効果を十分確保することができると思われる。


  6. 被災企業および被災地の今後の課題は、企業再建を地域復興さらには地域活性化にどのように繋げるかということである。被災地企業の事業再開は震災からの復興への第1歩にすぎず、地域経済の復興・活性化には被災地企業や地域産業の価値向上・持続的成長が必須である。被災企業に対しては、事業再開後も、地域の復興状況を踏まえ、経営の効率化・事業高度化に向けたきめ細かな支援の継続が不可欠といえよう。
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