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アジア・マンスリー 2016年7月号

【トピックス】
減速傾向が続く中国経済

2016年06月28日 関辰一


中国では、民間投資の減速に歯止めがかからず、景気減速が持続。今後、過剰債務・過剰設備の調整が続き、経済成長率は低下傾向を辿るものの、公共投資の拡大により景気底割れは回避される見通し。

■民間投資はスローダウン
中国では、景気減速が続いている。実質GDP成長率は2010年をピークに低下し、2016年1~3月期には前年同期比+6.7%となった。

景気の最も大きなブレーキ要因は、民間投資の増勢鈍化である。中国では高い成長期待を背景に借入を伴う形で積極的に投資が行われてきた。このため、民間企業の固定資産投資(設備投資、不動産開発投資、インフラ投資を含む)の対GDP比は約3割に達している(日本は17%)。

もっとも、民間企業は過剰債務・過剰設備を抱えるようになるにつれ、新たな設備投資に十分な投資収益が期待できなくなり、投資を抑制するようになった。2015年9月末時点において、中国の金融機関を除く企業は110.9兆元(約1,874兆円、1元=16.9円)にのぼる債務を抱えており、大きなバランスシート調整圧力に直面している。また、人件費の上昇に加え、輸出先の景気減速を背景に輸出が伸び悩んでいることも相まって、設備稼働率は2011年以降低下し続けている。

実際、民間固定資産投資の伸び率は2014年に前年比+18.1%、2015年に同+10.1%、2016年1~5月に前年同期比+3.9%と、減速に歯止めがかかっていない。とりわけ、民間鉄鉱石採掘業では同▲32.7%、石炭採掘業同▲27.4%、鉄道車両・船舶・航空機製造業同▲3.4%と大幅に落ち込んでいる。さらに、第2次産業のみならず第3次産業でも調整圧力が大きく、これまでの金融緩和や新規産業振興策では、投資マインドは改善するには至っていない。

こうしたなか、国有企業の倒産が発生し、大手民間企業でも中途採用の凍結や新卒採用の大幅縮小がみられるなど、雇用調整の動きが拡大している。2016年1~3月期の求人数は前年同期比▲4.5%と、5四半期連続で前年比マイナスとなっている。地域別にみると、東部の求人数は同▲0.5%と小幅な減少にとどまったものの、中部は同▲5.9%、西部は同▲11.3%と、より厳しい状況である。北京や上海などの東部の大都市では、証券業や不動産業の活性化などを背景に、一定の経済成長を維持しているものの、多くの中西部の都市や東部の東北地域では、鉱業や重工業の不振を受け、景気減速が深刻になっている。

こうした雇用情勢の悪化はこれまで堅調であった個人消費の増勢鈍化を招き、CPIで実質化した小売売上高の伸び率は2015年の前年比+9.3%から2016年1~5月の同+8.1%へ低下した。内訳をみると、住宅販売の持ち直しに伴い、家具や家電は堅調である一方、スマートフォンなどの通信機械や衣料品が弱まっている。

■公共投資が景気・雇用を下支え
先行きを展望すると、過剰債務・過剰設備が重石となるなか、民間企業はバランスシート調整を余儀なくされ、その結果、民間投資は一段とスローダウンするリスクがある。

中国では、非金融企業の債務残高が対GDP比で1.6倍とバブル期の日本を上回るなど、企業の債務拡大は限界に達しつつある。このため、金融緩和では民間投資を喚起できず、企業の資金需要は減退している。

こうしたなか、失業者数の急増を伴うハードランディングの回避に向け、政府は公共投資の拡大など高水準の財政支出を維持することに加え、政策金融を強化する方針を示している。

具体的には、2014年4月に中国人民銀行が国家開発銀行、中国輸出入銀行、中国農業発展銀行向けに新設した資産担保を条件とした長期低利資金貸出制度であるPSL(Pledged Supplementary Lending)の残高は、2016年3月末に1兆3,948億元に急増している。また、2015年8月には国家開発銀行、中国農業発展銀行が中国郵政貯蓄銀行を引受先とするインフラ向け金融債(私募債)を発行し、計3,000億元を調達した。

上記の合計額である1.7兆元はGDPの2.5%に相当するが、その一部は実体経済に回り始めており、2016年1~5月の国有企業(含む政府機関)の固定資産投資は前年同期比+23.3%に急加速している。これにより医療や教育など先行き需要が大きく拡大すると見込まれる分野の社会インフラ整備が進展するとみられる。

加えて、鉄道や道路を中心としたインフラ投資や不動産開発投資にも持ち直しの動きがみられる。このうち、住宅在庫が依然として高い水準であることを踏まえれば、不動産開発投資が加速し続ける可能性は低いものの、発展改革委員会が2015年に前年対比1.6倍にあたる2.5兆元にのぼる交通や農業水利、エネルギー分野の投資インフラプロジェクトを承認しており、先行き該当分野の投資が加速すると期待される。

このように、国有企業や政府機関の固定資産投資が高い伸びを維持し、インフラ投資が加速するなか、2016年の経済成長率は+6.6%、2017年は+6.5%と小幅な低下にとどまると見込まれる。ただし、こうした政府の対応は製鉄所の集約などの構造調整を遅らせ、かえって成長率低下局面の長期化を招く恐れがあることに注意が必要である。
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