コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

アジア・マンスリー 2016年6月号

【トピックス】
中国の税制改革の進捗度合いと今後の課題

2016年05月30日 佐野淳也


「営改増」(営業税から増値税への転換)が5月1日より全面実施された。「営改増」は、中国の税制改革上の主要成果の一つである半面、地方の減収分をどう補うのかなどの課題は残されている。

■4年半かけて増値税への一本化を実現
中国の財政部および国家税務総局は、2016年3月23日付で「営業税を増値税に改める試みを全面展開することに関する通達」(財税〔2016〕36号)を発令した。同通達によって、不動産業、建設業、金融業、生活関連サービスの4業種が5月1日から「営改増」(営業税から増値税への転換)の対象に追加された。
「営改増」は12年1月、上海市で試験的に始められた。その後、実施地域は段階的に全国へと拡大し、対象業種も徐々に増えていったが、14年半ば以降、「営改増」は足踏み状態に陥った。
今般の追加措置を通じて、営業税を課税される業種はなくなり、「営改増」の着手から約4年半で、増値税への一本化にこぎつけた。当初の予定(15年末)よりは遅れたとはいえ、「営改増」の完了は、胡錦濤前政権期から進められてきた税制改革における主要成果の一つと評価できよう。

■公平な税制の実現と企業の税負担軽減が改革の主目的
胡錦濤および習近平両政権が「営改増」に取り組んだ主な目的として、①公平な税制度の確立、②企業の税負担の軽減の2つがあげられる。
従来、サービス業に対する課税は、増値税と営業税が併存する「二元的な税制」であった(胡怡建編『2013中国財政発展報告』)。そのため、営業税の対象業種と増値税の対象業種の間での税負担の格差に加え、取引によっては増値税と営業税を二重に徴税されるケースが多発し、納税者の不公平感を増大させていた。そこで、仕入れ控除がないなどの要因で重複課税が生じやすいと指摘されていた営業税を仕入れ控除のある増値税に転換して不公平な状態を解消し、税制の公平性を高めようとした。
企業の税負担の軽減については、2つの税目の課税対象の違いに注目する必要がある。営業税は売上高に対して課税されるものであり、前述の通り仕入れ控除は認められていない。一方、増値税は、付加価値に対して課税され、控除項目も多い。税率は、営業税(3%、5%、10%、20%)よりも増値税(6%、11%、13%、17%)の方が総じて高くなるものの、課税対象の縮小に伴う押し下げ要因の方が大きく、営業税から増値税に税目を切り替えることで、企業の税負担は概ね軽減された。「営改増」に伴う減税額(増値税の減税も含む)は、2012年は426億元にとどまっていたものの、実施地域および業種の拡大で規模が年々拡大し、15年の年間減税額は2,666億に達した。16年単年の減税規模は、4業種の営業税を増値税に切り替えること等で、5,000億元を上回る見通しである(4月12日の記者会見における史耀斌財政部副部長の発言)。企業の税負担の軽減を通じて、景気の浮揚やサービスを中心とする産業の振興を図る政策スタンスは、一段と鮮明になったといえる。

■地方の減収分をどのように補うのかなどの課題はなお残存
上記の目的を達成したこともあり、「営改増」は一定の成果をあげたと評価できる半面、未解決の課題も指摘される。そのうち、地方の減収分をどのように補うかが最大の課題であろう。
営業税に伴う収入は中央財政にも配分されるが、その割合はごくわずか(15年は0.8%、151億元弱)に過ぎず、同税は事実上地方税と位置付けられる。しかも、中央財政に配分されたものを除くと、営業税収は地方税収全体の約30%を占めるなど、地方財政にとって最大の税目となっている。一方、増値税はその税収の75%が中央に配分され、地方には25%しか配分されない。2015年の営業税収で試算すると、増値税への転換で地方財政への配分額は1.9兆元あまりから4,790億元へ大幅に減少する。
財政当局は、「営改増」による地方減収分について、増値税の配分比率を変えず、経過措置で対応すると表明した(3月7日の楼継偉財政部部長の発言)。しかしながら、財税〔2016〕36号および同通達関連の細則では具体策は示されず、施行の前日になってようやく、増値税の収入配分を中央50%、地方50%に変更するとの通達(国発〔2016〕26号)が公表された。新しい通達には、「2~3年」の過渡期を置いた後、中央と地方の権限や地方税体系などでの改革の進展を踏まえて、配分比率等を再調整するかどうか検討するとの方針が盛り込まれた。増値税に限定せず、地方税制の抜本的な見直しも示唆したことは評価できよう。とはいえ、変更後の比率で試算しても、1兆元弱の減収が見込まれる。過渡的な期間のできるだけ早いうちに、減収分をどう補うのかに関する恒久措置を提示する方が課題の克服につながると思われる。
また、減税を優先し、課税ベースの拡大策が総じて先送りされたことも、中国の地方財政の持続可能性を考えるうえでは問題である。これは増値税にとどまらず、不動産税制においても、所有に対する課税強化の取り組みが近年進展しない一方、取引関連の減税は実施されており、税制改革全般の課題といえる。習近平政権には景気に配慮しつつも、残存する課題を着実に解決し、税制改革を引き続き推進させていくことが求められる。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ