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アジア・マンスリー 2016年4月号

【トピックス】
全人代で確定した中国の第13次5カ年計画

2016年04月04日 佐野淳也


3月の全人代で採択された第13次5カ年計画では、成長目標を従来より低く設定する一方、過剰生産能力削減等の構造改革に注力する方針が示された。同計画の履行度合いが中国経済の持続性を左右しよう。

■経済成長目標に込められた2つのメッセージ
3月5日に開幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は、2016年からの新しい5カ年計画である第13次5カ年計画の審議および採択が最重要議題であったことから、例年の全人代以上に内外の注目を集めた。

第13次5カ年計画では、今後5年間の成長率目標が当初より最大の焦点となるなか、習近平政権は、成長率目標を「+6.5%以上」という水準に設定した。これには、2つのメッセージが込められている。

第1に、高成長の実現に向け、大規模な景気刺激策を躊躇なく実施する手法からの転換である。数値のみに着目すると、+6.5%は、GDPの増加率で経済成長を示すようになった第10次5カ年計画(2001~05年)以降では最も低い水準である。高速成長から中高速成長へという同政権の新しい経済運営スタンスを端的に表したものと判断できよう。

第2に、2020年末までに実現するとした国家目標は撤回しないとの決意表明である。2020年の経済規模および都市・農村住民1人当たりの可処分所得を10年比で2倍にするという目標が胡錦濤前政権期に掲げられた。近年の実績も織り込んで計算すると、習近平政権がこれらの目標を達成するためには、今後5年間の年平均GDP成長率は+6.5%を若干上回る必要がある。都市住民の1人当たり可処分所得も、年平均+6.7%強のペースで増加しなければ20年に目標を達成できない。分配面の改善とともに、経済成長が個人所得の増加を促すことから、成長目標を「年平均+6.5%以上」に設定したと推察される。

なお、第13次5カ年計画では具体的な上限が示されていないことから、同計画を一部では高成長路線に回帰したものとみなす向きもある。しかし、2016年の成長率目標を別途「+6.5~7.0%」としており、+7.0%が事実上の上限と解釈できる。

■過剰生産能力の削減などに注力する方針
第13次5カ年計画においては、構造改革に対する積極的な姿勢も示されている。

例えば、1人当たりの労働生産性の向上(2015年:8.7万元→20年:20万元以上)が主要数値目標の一つと位置付けられた。2020年の研究開発費(R&D)の対GDP比を2.5%に引き上げる(15年実績比+0.4%ポイント)とも述べている。労働力や資本の大量投入による成長を期待できなくなった状況下、イノベーションを喚起し成長の新たなけん引役にするという習近平政権の意向が反映されている。

さらに、ハイテク産業や近代的なサービス業を振興させる一方、過剰生産能力については削減する方針が打ち出された。前回の第12次5カ年計画でも、同様の方針が盛り込まれていたが、総じて取り組みの方向性や問題点の指摘にとどまり、削減に向けた取り組みは遅れがちであった。これに対し、第13次5カ年計画では、削減方針を織り込んだ具体策が示され、取り組みもすでに始動している。

その背景として、生産過剰問題の深刻化があげられる。過剰生産能力の解消策をまとめた文書が2月に政府から出された鉄鋼業をみると、2015年の粗鋼生産量は34年ぶりの前年割れとなったものの、減少幅は小さく(前年比▲2.2%)、13年から3年連続で8億トンを上回る高止まり状態が続いている。

一方、中国鋼鉄工業協会によると、2015年時点の粗鋼生産能力は12億トンに達しており、約4億トンの過剰生産設備を抱えていることになる。長期にわたる高成長を背景に、国内需要の伸びを過大に見積もり、設備の増強にブレーキがかからなかったためとみられる。こうした過剰生産設備は、収益悪化を引き起こす一因となっているうえ、稼働率維持に向け、単価を下げてでも輸出を増やす動きを招いている。この結果、15年の鉄鋼輸出量は過去最大の1億トンに達し、世界規模で市況悪化を引き起こしたと、海外から非難を浴びている。

こうした状況下、最早先延ばしできないとの判断から、中国政府は小規模な高炉、環境対策や品質の面で劣っている設備の廃棄を中心に、今後5年間で1~1.5億トン分の生産能力を削減するという数値目標を提示した。新規増設プロジェクトの原則禁止、合併や海外への移転奨励といった手段も講じていく構えである。過剰生産能力削減の動きは、鉄鋼にとどまらず、石炭産業でも今後3~5年間で約5億トン分の生産能力を削減する方針が2月に発表されるなど、広がりをみせている。第13次5カ年計画の採択によって、こうした取り組みは一層加速すると見込まれる。

■適切な財政出動が計画の成否を左右
今回の5カ年計画が所期の目標を達成するためには、景気や雇用の悪化回避に向け、適切な財政出動が不可欠と思われる。一方で、安易に財政支出を拡大した場合、成長目標は実現の見込みが高まる半面、過剰生産能力の削減やイノベーションの喚起に取り組む意欲を損ねる恐れがある。

また、余剰人員対策(政府は、石炭と鉄鋼で180万人と試算)として1,000億元が拠出されるほか、インフラ整備などへの支出拡大も見込まれており、景気下支えに注力しすぎれば、財政赤字の規模が野放図に拡大しかねない。

財政の持続可能性を考慮しつつ、支出を適切に執行できれば、中国経済の持続的発展に対する懸念も薄らいでこよう。習近平政権の対応力に注目したい。
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