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アジア・マンスリー 2016年3月号

【トピックス】
急増する中国の不良債権-経済停滞が長期化の恐れ

2016年02月29日 関辰一


中国では、景気減速下、不良債権が急増している。先行き、中小民間企業に対する貸し渋りや貸し剥がしのリスクが高まるほか、国有企業向けの追い貸しの問題も懸念される。

■急増する不良債権
中国では、不良債権が急増している。銀行業監督管理委員会によると、2015年9月末の全国金融機関の不良債権残高は1兆1,863億元(約22兆円)と前年9月末対比54.7%増加し、不良債権比率は1.6%に上昇している。

さらに、不良債権残高の公式統計には①オフバランスの与信が対象に入っていない、②不良債権の認定が甘い、等の問題があることを踏まえると、実際の不良債権は公式統計を大きく上回る規模と考えられる。

この背景には、景気減速による企業の資金繰りの悪化がある。2015年の中国の実質GDP成長率は前年比+6.9%と25年ぶりの水準に低下した。輸出額は前年比マイナスとなり、小売売上高と固定資産投資の伸び率も2014年から低下し、内外需いずれも悪化している。

需要の弱まりを受けて、企業収益は悪化している。工業企業の売上高は2014年秋まで前年比7~8%程度の伸びを維持していたものの、2015年通年では0.8%増に大きく鈍化し、税前利益にあたる利潤総額は同▲2.3%のマイナスとなった。こうしたなか、企業の資金繰りはリーマン・ショック時よりも厳しい状況に陥っている。

■政府は貸し渋り・貸し剥がしを警戒
中国人民銀行は2016年のマクロ経済を展望するにあたり、不良債権比率の上昇が主要リスクの一つであると明記しており、中央経済工作会議では不良債権処理を2016年の重要課題の一つと指摘していることも、不良債権問題が深刻化していることを示唆する。

具体的には、2015年12月16日、中国人民銀行の首席エコノミストである馬駿氏は、同行研究担当スタッフ5名との連名で、「2016年中国宏観経済預測」というタイトルのワーキング・ペーパーを発表した。その中で、2016年の実質成長率は+6.8%と2015年から0.1%ポイント低下するとの予測を公表すると同時に、①過剰生産能力による製造業の投資減速、②不良債権比率の上昇による銀行の融資慎重化、③速すぎる米国の利上げペース、という3つが主な景気下振れリスクになると整理している。
②については、特に石炭、鉄鋼、建材など過剰生産能力がみられるセクターと中小零細企業向け融資において、貸し渋りや貸し剥がしの恐れがあると警鐘を鳴らしている。こうした状況下、2015年12月21日に閉幕した中央経済工作会議では、不良債権処理にあたり、可能な限り企業破たんを少なくし、企業合併を模索するとの声明が発表されている。

なお、不良債権を金融機関別にみると、とりわけ農協にあたる農村信用社の不良債権比率が高い水準にある。中国人民銀行の「2015年第三季度中国貨幣政策執行報告」によると、2015年9月末時点で1,397社の農村信用社の不良債権残高は合計5,000億元、不良債権比率は4.2%に達する。また、業種別にみると、採掘業、製造業、建設業、卸小売業、不動産業で不良債権比率が高いとみられ、企業規模別では、不良債権の大半は中小企業向けとされる。

■国有企業向けの追い貸しも問題
不良債権の急増が銀行の貸し渋りや貸し剥がしにつながれば、とりわけ中小民間企業の資金繰りが一段と厳しくなる恐れがあることは間違いない。

一方で、中国政府が雇用の安定を重視していること、国有企業が多くの就業者を抱えていること、政府が国有銀行の融資動向に大きな影響力を持っていること、などを勘案すれば、国有企業向けの追い貸しが行われることも懸念される。

実際に追い貸しが行われている兆候も散見される。中国人民銀行によると、2015年末の銀行融資残高は前年末に比べ14.3%増と、2014年末の前年比13.6%増から加速している。

融資統計がとれる工業部門をみると、生産活動に急ブレーキがかかるなか、一部で赤字企業が市場から退出する動きもみられるものの、全体でみれば工業向け融資は一段と増大している。

不良債権の抜本的な処理は、短期的には痛みが大きいものの、収益性が劣る事業あるいは企業が市場から退出し、市場メカニズムに則った新陳代謝が進むことで、その後の力強い景気拡大につながるものでもある。新陳代謝の動きが限られるなか、資本や労働力の効率的な配分が遅れ、中国経済の停滞が長期化することが懸念される。
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