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オピニオン

社会的企業という法人格を作る

2016年05月24日 渡辺珠子


 東日本大震災以降、地方の経済循環とコミュニティの再生の一手法として、ソーシャルビジネスに注目が集まっている。行政サービスが行き届きにくく、同時に市場の原理からも取り残されてしまう「エアポケット」のような社会的課題を解決する有効な手段と、ソーシャルビジネスが考えられているためである。最近では震災復興関連を中心に、ソーシャルビジネス立ち上げへの補助金提供や関連調査事業など、政府も様々な支援を打ち出している。

 ソーシャルビジネスの担い手の多くはNPOや一般社団法人などの非営利目的の団体であり、一般的に金融機関から融資が得られにくく、それゆえにこれら政府の補助金事業は重要な資金源である。しかし多くの補助金事業は、申請できる事業分野や事業実施地域が定められており、使いたいように補助金が使えるわけではない。また補助金が実際に入ってくるのは基本的に事業実施後であり、そこまでのキャッシュフローは自分たちでどうにかするしかない。そのため、資金調達は多くの実施団体において常に課題の中心である。また、予算が十分に確保できないために、必要な人材や専門家を適時に雇うことが難しいことも、ソーシャルビジネス推進基盤を固める上では大きな課題となっている。

 これらの課題を解決するヒントとして、韓国の社会的企業認証制度に着目したい。2007年に韓国政府は社会的企業認証制度を立ち上げ、一定の条件をクリアしたソーシャルビジネスの担い手に対して、「社会的企業」という公的なライセンスを発行し、様々な便益を受けられるようにしている。例えば、最大で8割に上る人件費補てんを3年間受け取ることができる他、弁護士や会計士等の専門家からサービスが受けられる。認証を発行する韓国社会的企業振興院によれば、「この制度は、社会的企業が市場で他の民間企業と十分に競争できる力をつけるための支援であると同時に、政府の財政支援に依存しない形での社会課題解決を後押しする意味を持つ」とのことである。さらに興味深いのは、政府が「社会的企業」というラベル付けをしたことで、社会的企業を対象としたコンサルティングサービスや融資商品、また社会的企業を創出・運営する人々を育てるための大学院の専門課程などが自発的に民間セクターから出てきたことである。すなわち韓国では、社会的企業認証制度が核となり、ソーシャルビジネスをより効率的に生み出し、成長させるエコシステムが確立しつつあるのである。

 日本でも社会課題が多様化する中、政府の財源は限られており、国民や地域社会のニーズに対応するソーシャルビジネスへの需要は今後高まることが想定される。現在の単年度の補助事業だけではなく、「社会的企業」のような法人格を制度化し、官民が一体となって税控除や複数年にわたる資金提供などの支援を「社会的企業」に集中的に投下することで、ソーシャルビジネスを効率的に促進することができるだろう。こうした社会的体制づくりが、まさに今、求められていると考える。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。