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地方公共団体におけるPPP/PFI推進のあり方
~先進諸国に学ぶべき教訓~
【第3編】

2016年04月25日 林倫子


3.地方公共団体におけるPPP/PFIの推進にあたって先進諸国から学ぶべき教訓
 前編で紹介してきたとおり、英国においては、1990年代から2000年代まで推進されてきたPFIは2010年前後を境に大きな曲がり角を迎えている。それは、必ずしも従来の公共調達に回帰するというものではなく、過去の反省を踏まえて、よりフェアな視点からPPP/PFI手法を捉え、官民連携による真のVFMの実現を追及するための不断の努力の連続であるといえるのではないか。
 翻って、現在のわが国においては、第1編で述べた通り、PPP/PFIのさらなる推進に向けて、政策の総動員を図っている状況である。本編においては、英国を中心とする先進諸国の取り組みを参考に、特に地方公共団体におけるPPP/PFIの推進に向けて、第1編で問題提起した3点について論じたい。

(1)官民の人材・ノウハウの組織化と継続的なフォローアップを
 これからの地方公共団体レベルにおけるPPP/PFIのさらなる案件の発掘・組成・事業化にあたっては、必要な人材・ノウハウの確保とともに、持続可能な仕組み作りが、重要となってくる。現在、国は「地域プラットフォーム」の立ち上げ支援に力を入れているが、中小規模の地方公共団体にとっては、自力でそのような機能を維持し続けること自体が、負担となるおそれもある。また、その維持コストに見合うだけの潜在的事業数が、エリア内に存在しない可能性もある。地域プラットフォームを持続可能な仕組みとするためには、その「適正な規模」についても検討していくべきであり、中小規模の地方公共団体については、広域レベルでのプラットフォームの設置を模索することが望ましいと考えられる(なお、スコットランドの「hub」の取り組みでは、スコットランドを5つの領域に区分しているが、それぞれの領域内の人口はそれぞれおおよそ100万人規模になるように設定されている)。さらに将来的には、より踏み込んだレベルとして、「hubco」のように、そのエリアのPPP/PFI事業を推進する官民共同の企業体を設立することも考えられる。地元企業が出資者として参画することで、地元のニーズに根差したPPP/PFI事業の組成が促進されるだけでなく、民間企業がPPP/PFIに対するノウハウを蓄積し、民間発意の新たな官民連携プロジェクトが生まれる素地となることが期待される。
 また、案件組成支援だけでなく、PPP/PFI導入後のフォローアップ支援にも力を入れていくべきである。PFIは導入段階だけでなく、モニタリング段階においても公共に事務負担が継続的に発生する。PFIを導入した地方公共団体からは、運営中のモニタリングが大変だからもうPFIはやりたくない、という声もしばしば聞かれる。PPP/PFI導入後の公共側の負担を軽くすることで、そういった「PFIアレルギー」の反動をおさえることができるのではないか。この問題の対処にあたっては、英国におけるLocal Partnershipsのような、地方公共団体の支援に特化した専門家組織の設立という選択肢もあり得る。Local Partnershipsが比較的安価で提供するプロジェクトの第三者評価や既存事業の効率化支援といったサービスによって、発注主体である地方公共団体は、モニタリング負荷の軽減やアカウンタビリティの確保が可能となっている。
 わが国においても「いつでも気軽に相談できる窓口」としての支援組織が、地方公共団体のPPP/PFIの推進において有効な処方箋となりうるのではないか。

(2)事業の推進に適した合理的なリスク分担を
 英国のPFI推進政策は紆余曲折を経ており、補助金政策や総量規制など、様々な「アクセル」と「ブレーキ」が踏まれてきたといえるが、わが国が参考にすべき点は、その時々の経済環境に合わせた柔軟な官民のリスク分担のあり方についてである。
 前編でみたとおりPF2公約時は、欧州は信用危機の真っただ中にあり、民間資金の調達が困難であったことから、PF2では、公共が一部事業リスクをとったり、公共がSPCに対するファイナンスのアレンジを担ったりといったスキームが導入されたほか、細かい項目におけるリスク分担の見直しが行われている。また、同じくPPP推進国である豪州では、新設高速道路の需要リスクについて、運営開始後の一定期間は公共側が負い、実際の交通量が把握された上で民間側にリスクを移転するというスキームが導入されている。
 わが国においても、今後は単なるサービス購入型ではなく、民間が需要リスクを担うような独立採算型や混合型の事業の拡大が志向されているが、特に地方では、民間が導入初期の需要リスクを取れないために案件化が実現していないものがあると考えられる。例えば、民間の収益施設を併設するPFI事業や公有地活用事業において、現行の需要(エリア内の居住人口や周辺交通量等)では事業成立が見込めないような場所であっても、それ自体が「目的地化」する魅力的な施設が整備されることで、人の流れが変わるという可能性が存在するような事業である。そのような「潜在的な事業」については、設計・建設段階において民間のノウハウを取り入れつつ、公共側が運営開始後の一定期間の需要リスクを負うことで、案件化を進めることができるのではないか。もし、地方公共団体がとれないリスクがある場合は、国が一定期間にわたって支援を行うというスキームも考えられるのではないか。

(3)コスト評価偏重主義からの脱却を
英国をはじめとする海外では、財政コストの削減を算定する定量的評価モデルに対する批判から、より定性面においてPPP/PFI手法の導入を捉え直す動きが起こっている。これは極めて逆説的な現象ではあるが、「数字は都合よく操作可能なものである」という反省に基づくものである。
 わが国における事業手法の評価モデル(VFMの算定モデル)は、たいていの場合、財政負担の削減効果のみが算定されており、定性的な評価については、定量化が難しい場合における代替手段や、定量評価を補足する説明材料と捉えられている。しかし、第1編で述べたように、今日のわが国のPPP/PFIには、民間のビジネスチャンスの創出や公共サービスの向上といったように、「成長のドライバー」や「バリューアップ」となることが期待されている。この点を鑑みれば、これからは単なる公的負担の削減効果(場合によっては債務の繰り延べ効果によってもたらされる見せかけの効果)にのみ着目するのではなく、民間ノウハウの活用によってどのような副次的な効果が得られるのかという面をより積極的に評価することも考えていくべきではないか。もっとも、定性的あるいは財政効果以外の定量的な側面の評価にあたっては、必ずしも英国や他国の考え方にとらわれることなく、わが国独自の視点を取り入れていくことが重要であろう。例えば、民活導入による地域活性化や雇用創出等の社会経済的なメリットや、地域内外との交流の促進、地域外の民間企業の参画による地域としての新たな文化やノウハウの創出等、各地方公共団体それぞれのニーズを満たす可能性が、秘められていると考えられる。
 このように、PPP/PFIを単なる「コストダウン」の手法と捉えずに、地域の新たな魅力の創出や雇用・人材の育成、官民のコミュニケーションのあり方といった「バリューアップ」という側面から評価をしていくことが、民間企業からの斬新なアイデアや発想・提案を引き出す素地を醸成するのではないか。

4.おわりに
 前編において英国を中心とするPPP/PFIの変遷についてみてきたが、PFIの発想が生まれてからこれまでの20余年の政策は、まさに「Try & Error」の連続であったものと思われる。わが国においても、PFI法の施行から15余年が経過した今、これまでのPPP/PFIの課題について総括し、PPP/PFIをわが国の(特に地方公共団体における)経済再生のドライブとするための有効な施策を打っていく必要がある。そのためには、官民が協力して知恵を出し合い、合理的なリスク分担のあり方や柔軟なスキームについて挑戦していくとともに、より広い視点でPPP/PFIの価値を捉え直していく必要があると思われる。そして、地方公共団体におけるPPP/PFIの持続的な発展の実現に向けた努力を重ねていくことが求められる。

以上



※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません


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