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「包括連携協定」を題材に、公民連携を考える

2015年08月25日 青島耕平


 先日、とある自治体で、公民連携協定に関する検討をする機会があった。
 公と民の関係性については、両者の適切な役割分担と協力関係の構築が重要であるとこれまで何度も指摘されてきた。こうした方向性をより具体化していく手法として、イギリスにおいてPFIの考え方が生まれ、日本においてもPFI法が成立して以降、公民連携(Public Private Partnership)の様々な取り組みが進められている。その中で今回は、比較的新しい、公と民との「包括連携協定」という取り組みに着目して、公民連携のあり方を考えてみたい。

 「包括連携協定」は、地域が抱える社会課題に対して、自治体と民間企業等が双方の強みを生かして協力しながら課題解決に対応するための大枠を定める枠組みと定義できよう。すでに47都道府県が民間企業と何らかの協定を締結し、さらに近年は市町村にまでその取り組みが広がっている。報道ベースでも、続々と新たな協定締結が報じられているところである。締結相手となる民間企業はコンビニエンスストアやスーパー等を中心としながら、さらに金融機関やIT関連企業等に拡大している。内容は、災害時の物資の提供や運搬等の協力を定めたもののほか、地元食材等を使った商品のPRや販路拡大など多岐に渡っている。

 こうした枠組みについて、自治体にとっては、民間企業が有する資源、ネットワーク、ノウハウ等を地域課題の解決に生かせるというメリットがあり、一方、民間企業にとっては、CSRの取り組みとして企業のイメージアップ効果が期待できると、一般的には考えられている。

 こうした協定が増える背景として、社会課題の顕在化という外部環境ももちろんながら、協定という枠組み自体が公民双方を強く縛るものではなく、緩やかな協力体制を規定しているため、双方の負担やリスクが発生しにくいという理由があると考えられる。しかし、これは裏を返せば、どのような具体的成果が上がっているかの評価が難しいという問題点も一方で生み出すように思われる。民間企業にとっては、CSRという位置づけにある以上、本業のビジネスに求められる収益性等も考慮しにくい。

 こうした中で、筆者としては、包括協定という枠組みの利点を生かしつつも、さらに踏み込んだ双方の協力関係のあり方を模索すべきではないかと考えている。民間的手法を用いて社会課題に取り組むという大前提を置きつつも、社会貢献的な考え方だけではなく、ビジネス活動としての収益性確保を目指すこと、そのために行政に何ができるかを考えてみたい。筆者は、行政が持つ最も強力な資源は、地域住民に対する「信用力・安心力の提供」(「お墨付き」機能)ではないかと考えている。これを用いれば、一民間企業では難しいような地域住民に対する非常に有効な広報活動が可能となる。さらに、信用力・安心力をベースにして、これまで民間企業のビジネス活動とつながりにくかったボランティアや地域活動等のインフォーマルサービスとの接合や、中立的な立場での民間企業同士のコラボレーションを促進する役割も担える。もちろん、地域住民に信用と安心を担保する以上は、民間企業が提供するサービスに対して一定程度の監査やモニタリングの関与は必須である。むしろ、こうした監査やモニタリングこそが、民間企業の提供するサービスの質を保証するものとなり、大きな宣伝効果を生み出すと考えられる。

 もちろん、これまでの常識から言えば、自治体という行政が特定の民間企業に肩入れすることなど許されなかったし、タブー視もされた。しかし、現在大きく広がっている公民の包括連携協定の取り組みを、中途半端なものに終わらせず、さらに深化させるためには、行政側のより踏み込んだ関与が求められることは間違いない。これまでの常識やタブーを乗り越えてでも、受益者である住民のメリットを優先する覚悟が問われている。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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