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アジア・マンスリー 2015年7月号

【トピックス】
整備強化が求められるインドネシアの金融システム

2015年07月02日 清水聡


インドネシアの金融システムには、多くの問題が残されている。金融システムの拡充・向上は、同国および海外の経済主体に大きなメリットをもたらすことになろう。

■相対的に小規模なインドネシアの金融資本市場
ASEAN経済共同体(AEC)の構築と並行して、域内の金融資本市場の統合を目指す政策的な努力が進められている。域内の金融資本市場は国際的にみれば総じて小規模であり、国ごとに発展度の格差が大きい。そのため、各国間で異なるニーズの調整を図るとともに、地域全体の底上げによって発展度の格差の縮小に努力することが求められている。

ASEAN当初加盟5カ国の中でも、インドネシアの金融資本市場は相対的に小規模にとどまっている。中央銀行は経済発展の中期的な課題として、①産業競争力が十分に向上していないこと、②経済発展の基礎的条件としての物流・通信インフラ、競争力のある人材、技術改革を推進する能力、良好なビジネス環境・制度などが不十分であること、③国内金融市場が小規模であるために経済全体の資金調達構造が最適でないこと、をあげている。

金融資本市場の規模が小さいことは、海外資金への過剰な依存を生む原因となる。近年、インドネシアでは、相対的な高利回り、政治の安定や経済発展の持続への期待などから株式・国債市場への資本流入が急拡大し、海外投資家への依存度が大幅に高まった。これには当然、急激な資本流出による市場変動のリスクが伴う。また、対外債務が民間部門(大半が非金融企業)を中心に増加している。
為替レートが不安定さを増す中で、外国為替市場の整備も不可欠である。中央銀行によれば、その規模は小さく、1日当たり取引額はタイやマレーシアの110~130億ドルに対し、半分以下の50億ドル程度にとどまる。また、直物取引が全体の67%を占めるなど、周辺諸国に比較して先物・スワップ取引が未成熟となっている。資本フロー安定のためにも、外国為替市場の効率性や流動性を高め、ルピア相場の安定を図る必要がある。

■金融システムの問題点とその要因
一方、国内では近年、経済成長とともに銀行融資が回復し、残高の対GDP比率も上昇しつつある。今後も旺盛な資金需要が持続すれば、銀行部門が小規模であることが経済成長の制約要因となる可能性もあろう。預金貸出比率は、小規模な銀行を中心に上昇傾向となっている。この状況をみると、国民が銀行取引を行う割合が低く、預金基盤が小さい(いわゆる金融包摂の問題)ことが銀行部門の規模の拡大を抑制する原因になっていると考えられる。

規模が小さいことに加えて、効率性の問題もある。銀行の経営効率の低さを反映し、貸出金利と預金金利のスプレッドが大きい。貸出金利は銀行規模によって異なるが、その決定方法が不透明であるという見方もある。また、貸出金利が高いことが構造的に融資の伸び悩みをもたらしているという指摘もあり、この点も銀行部門の規模の拡大を抑制する一因になっている可能性がある。

政府系銀行(国有銀行4行、地方開発銀行26行)は60年代より政策的な優遇を受けており、そのことが寡占的な産業構造や非効率的な経営をもたらしている。銀行部門の総資産は金融機関全体の約8割を占めるが、上位10行で総資産の約6割を占めている。一方、97年の通貨危機以降、中央銀行は小規模な銀行の整理統合を目指してきたが、商業銀行数は119(2014年7月現在)と2004年1月から約10行の減少にとどまり、目覚ましい成果は上がっていない。銀行数が多いため規制監督の目が十分に行き届かず、リスク管理やガバナンスに問題のある銀行が存在する可能性もある。もし金融危機が発生すれば、これらの銀行は適切に対処できないであろう。

さらに、長期の資金調達手段が限定されていることも重要な問題となっている。銀行融資は概ね5年以内となっている上に、社債の発行期間も1~3年が約5割、3~5年が約3割であり、5年超は約2割にとどまる。社債市場は小さく、発行体の多くは銀行であるため、社債市場から5年超の資金を調達している一般企業はきわめて少ない。

社債の発行が銀行に集中している一つの原因は、銀行預金の構成にある。6カ月以上の期間の定めのある預金が全体の10%に満たないため、銀行の流動性管理は容易ではなく、長期的な性格の資金をいかに動員するかが金融システム全体の課題となっている。

■不可欠な金融システム整備の推進
銀行部門の総資産の対GDP比率が低いことや、長期金融が発達していないことについては、金融システムの信認の確立という基本的な問題がクリアされていないことが影響しているとみられる。法律やガバナンスの枠組みが弱く、債権者の権利、コーポレート・ガバナンス、開示情報の信頼性などに問題がある。契約の履行を確実にするための裁判制度の抜本的な改革、企業倒産制度の見直し、会計監査基準の厳格化など、取り組むべき課題は多岐にわたる。

以上からインドネシアの金融システム整備の課題をまとめれば、①銀行再編の加速を通じた統合・効率化・健全化による国際競争力の向上、②金融システムの信認を確立するための法規制枠組みの整備、③銀行預金取引や中小企業向け融資の拡大を目指す金融包摂の推進、④機関投資家の育成や債券市場の整備による長期金融手段の拡充、などとなろう。

特に、長期金融手段の拡充は、インフラ整備資金の調達のためにきわめて重要である。近年、投資の対GDP比率は回復し、30%をやや超える水準で安定しているが、投資は鉱業・食品・プランテーションなどの分野が中心であり、インフラ整備には遅れが目立つ。インドネシアでは人件費の上昇やインフラの未整備が事業コストの上昇につながり、投資環境を悪化させている。物流の非効率や交通渋滞をもたらす道路・港湾などの未整備の解消は、特に重要な課題となっている。また、インドネシアの成長には資本蓄積が重要な役割を果たしており、インフラ整備がネックとなって投資が抑制されれば経済成長の足を引っ張りかねない。今後、+7~8%台の成長を目指すためには、インフラ整備の加速が不可欠といえる。

こうした状況下、日-ASEAN二国間金融協力など、日本からインドネシアに対する金融協力が強化されている。金融システムの拡充・向上はインドネシアの経済成長を促進し、金融統合への対応や金融危機への対処の能力を高めるとともに、海外経済主体にも金融インフラの利便性の向上や規制緩和などの形で大きなメリットをもたらすことになることから、インドネシア金融システムの課題を踏まえ、適切な支援を続けていくことが期待される。
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