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アジア・マンスリー 2015年5月号

【トピックス】
中国地方政府の債券発行枠組みが固まる

2015年04月30日 佐野淳也


一般会計の赤字を補てんするための自主起債とともに、債務借り換えのための起債が認められるなど、中国地方政府の債券発行枠組みが固まった。これにより、財政破たんリスクは低下するであろう。

■地方の一般会計赤字を省政府の自主起債で対処
中国の一般会計における中央と地方の割合は、歳入面ではほぼ半々であるのに対し、歳出面では行政サービスの多くを担う地方が85%を占めている。こうした不均衡に伴う地方財政収支の赤字拡大への対処が主要課題の一つとなっている。

これまで地方財政の一般会計赤字を補てんするため、中央から地方交付税交付金や税収返還などの財政移転が実施されてきた。それでも不足する場合には、1995年施行の予算法により地方政府の債券発行が原則禁止とされたため、リーマン・ショック後の財政出動の際には、中央政府が地方債を代理発行して不足を補った。

その後、地方債の発行に関する部分的な緩和を経て、2015年1月施行の改正予算法では、省・自治区・直轄市(以下、省)レベルの政府に限定されるものの、地方債を自主起債し、それを公共資本向けの支出に充てることを認める規定が盛り込まれた。

■3種類の地方債を発行
こうしたなか、2015年3月の全国人民代表大会(全人代)で15年予算が採択された。改正予算法施行後に最初に執行される同予算では、中央からの財政移転でも賄いきれない地方の一般会計赤字5,000億元について、地方政府一般債券を発行して賄う方針が示された。

また、15年予算および全人代期間中に財政部が公表した資料によると、地方政府一般債券とは別に、①地方政府専項債券、②借換債券という2種類の地方債も新たに発行される。

地方政府専項債券は、地方政府性基金(特別会計)の内、収益を見込める公益事業向けの資金を調達する目的で発行される地方債である。これは、一般会計における地方政府一般債券と対をなすものであるが、2015年の発行規模は1,000億元と、地方政府一般債券に比べて小さい。

一方、借換債券は、15年に償還期限を迎える債務の内、地方政府に返済責任があるとされた債務の借り換え目的で発行される地方債である。2013年6月末時点で、15年に償還期限が到来する地方政府に返済責任がある債務は約1兆8,600億元あるが、全額の借り換えは認めず、発行上限(1兆元)を設定した。

対象を絞りつつも、財政部が地方債による債務の借り換えを認めた背景は、次の2つである。第1に、過去2年ほどではないにせよ、15年も高水準の償還が続くことである。

第2に、利払い負担の増大である。従来、地方政府は、債券の自主起債が認められないなか、行政サービスや都市インフラ整備などのために、銀行融資やシャドーバンキングから高金利で資金を調達しており、その返済が財政を圧迫していた。もし、14年末までに償還期限を迎えた債務の一部について、短期かつ高金利の資金調達手段で借り換えられていたとすれば、地方政府の負担は先述した1兆8,600億元を上回ることになる。

■財政破たんリスクは低下するが、制度運用面でなお課題
3種類の地方債の発行枠組みが固まったことで、銀行融資やシャドーバンキングと比べれば、低金利かつ長期の資金調達が可能となり、地方財政には大きなメリットが生じる。とりわけ、借換債券の発行が地方政府の負担軽減につながり、債務不履行のリスクは大幅に低下すると期待される。また、省レベルの政府が地方政府一般債券の起債および返済の主体となることについては、地方の裁量拡大につながる動きとして評価できる。

半面、いくつかの課題も浮かび上がってくる。例えば、借換債券の対象に偶発債務が含まれていないこともあり、発行上限枠の拡大が早くも検討されている模様(3月27日の楼継偉財政部長の発言)である。安易に拡大すれば、今度はモラルハザードを誘発しかねない。

また、財政部は、各省の借換債券発行額の上限を一律(償還期限を迎える責任債務の53.8%)に設定しており、各省の収入規模や返済能力が考慮されていない。上限比率に幅を持たせた方が望ましいであろう。同様の理由から、一般政府債券の発行に際しては、省政府による自主起債・自主返済の全面実施に固執せず、中央による代理発行・代行返済も当面継続する方が資金調達をめぐる混乱は小さくなると考えられる。

地方債発行制度の枠組みが出揃ったことで、今後は運用面の課題克服が地方財政健全化にとっての焦点となってくるであろう。
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