要旨 |
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わが国製造業のアジアへの生産シフトは、従来、低賃金労働力の活用によるコスト削減効果を重視することが特徴であった。このため、アジア生産現法の設備投資が増加すると、アジアから日本への逆輸入が増加し、アジア生産現法の日本向け販売比率が上昇した。しかし、2002年度以降、アジア生産現法の設備投資が再び増勢に転じたにもかかわらず、日本向け販売比率は低下するという従来とは異なった動きがみられる。 |
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この背景には、わが国製造業が、国内とアジアの間で生産の棲み分けを強めていることがある。すなわち、①アジアでは、高い経済成長に伴う現地需要の拡大を背景に、現地向け製品の供給体制の拡充に注力する一方、②日本国内では、製造ノウハウのブラックボックス化などによる高付加価値化や、商品サイクルの短期化に応じた機敏な生産体制の強化など、国内生産を重視する姿勢が強まっている。今後を展望しても、アジア各国の市場拡大、さらに高付加価値化やスピーディーな生産体制確立の要請は持続的な動きであるだけに、アジアと国内での生産の棲み分けは一段と強化される公算が大きい。 |
(3) |
そこで、この変化がわが国経済に与える影響を試算すると、アジアとの間で生産の棲み分けが進んでいくケースでは、アジア生産現法の生産が拡大すると同時にわが国の国内生産も拡大するという“Win-Win”の関係が強まり、2010年度には2003年度に比べて0.6兆円の貿易収支押し上げ効果が生じ、雇用は10万人増加する。これに対し、わが国製造業が低価格競争に巻き込まれる、あるいは、高付加価値化路線に失敗する結果、棲み分けが進まないケースでは、アジア生産現法の生産拡大が国内生産の減少につながるゼロサム的な傾向が強まり、わが国貿易収支を3.8兆円押し下げ、雇用は65万人減少する。 |
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このようにマクロ的視点からみると、近年、強まってきたアジアとの棲み分けは、わが国の経済成長や雇用に対しプラスに働くと期待できる。棲み分けシナリオの実現性をさらに高めるうえで、政策のサポートは欠かせない。国内生産の位置づけを強化するために、①産官学連携プロジェクトの推進、②法人課税の軽減、③知的財産権の実効性確保の推進、などを進めていく必要がある。 |